「かき氷も日本料理のうち」老舗店が追求する潔さ 四季折々の素材を生かして一年中楽しむものに

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新しいかき氷は常に考えていかないといけないものですが、シロップのアイディアというのはそんなに無限に生まれるものでもありません。

あまりかき氷の食べ歩きはしないのですが、ときどき話題のかき氷屋さんを訪れると、そのつくりの複雑さに、「いま都心では、こんなに手をかけないといけないんだ」と驚かされることばかりです。

かつては新しいといわれた埜庵のかき氷も、いまとなっては違います。シンプルなかき氷が埜庵の信条で、そこを変える気はないのですが、それがかえってうまい差別化にはなっていると思います。

栗とかぼちゃのかき氷
晩秋に登場する栗とかぼちゃ、人気のかき氷を一つにした欲張りな氷。ふたつのシロップはそれぞれに個性がありつつ味の方向性が同じなので、混ざってしまわないよう重ねず、縦割りにかけている。別添えはシェリー酒と練乳(出所:『一年じゅうかき氷の店 埜庵の20年 絶品シロップレシピつき』)

というのも、埜庵はかき氷を一年中食べる人が少ない時代に始めているので、まずは広くお客さまに受け入れてもらう必要がありました。シンプルなフルーツのかき氷が多いのはそのためです。

かき氷のかたちが違うのではなく、対峙しているお客さまが違う。結果的にさまざまなかき氷が生まれて、多様性につながり、かき氷の発展にもつながっていると思います。

3年勤めたら「のれん分け」

新しいアイディアの話に戻ると、私の場合は、むしろかき氷以外の食べ歩きのなかから生まれることが多いです。特に旅行や出張で地方に出かけたときに、その土地独自の食べものから影響を受けるということが数多くあります。

レシピは何種類くらいあるのですか?と聞かれますが、実は自分でまとめたレシピ帖のようなものはありません。

手を動かしながらつくり、最終的に決めたレシピを、そのときどきの「ニバン(店でNo.2の人のこと)」を務めている人が書きとめます。そして、その「ニバン」の人がお店を卒業するときには、それまでに書きためた原本のコピーを私に渡す。

いっしょに手を動かし、考えてつくったレシピは、お互いの財産として共有していきます。

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