「チョルテン」と呼ばれるこの塔は、高僧の遺物が収められている仏塔だった。民家が密集する住宅地の真ん中にあることからも、村人たちの日常生活に信仰が深く根ざしていることがわかる。
厳しい大自然に晒され、徐々に風化していくその姿は、まるで仏教の諸行無常を体現しているかのようだった。
世のすべてのものは常に流転し、変化し、そして消滅していく。
もしかすると、村全体が老朽化しているように感じたのは、古くなった家屋を新しいものに建て替えるのではなく、崩れ落ちていく様を、万物の真理としてそのまま受け入れているからかもしれない。
チベット仏教の村にある神聖な湖
住宅街を抜けると、小さな湖が目に飛び込んできた。ナコ湖だ。
意外と小ぶりな湖で、その周囲にはチベット文字が刻まれた平らな石が積み上げられていた。これらはマニ石と呼ばれ、チベット仏教の経文や祈願文が刻まれた信仰の対象だ。
そのことから、ナコ湖がこの村の人々にとって、ただの水源としてではなく、神聖な役割をはたしていることを理解した。
やはり、この村は面白い。知れば知るほど興味が湧いてくる。
俺は夢中になって村を隅々まで観察した。こんな経験はなかなかできない。
「ごっつさん、山に行きません? 上の方に何かが見えます」
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