飼いネコの「胸のしこり」放置で起きていた"悲劇" 9割は予防可能、知っておきたい「ネコの乳がん」

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

もう1つは、なるべく早い時期に避妊手術を行うことです。

乳がんの発生はホルモンバランスの変化と関係しており、初回発情前のなるべく若いうちに避妊手術をしておくと、乳がんの発生が抑えられます。

生後1年以内の避妊手術で予防可能

海外の文献によると、生後6カ月以内に避妊手術をすれば実に91%、1年以内で86%も乳がんの発生率が低下するというデータがあります。一方で、13カ月齢以降では避妊手術をしても予防効果はほぼなくなってしまいます(Overleyら、2005. J Vet Intern Med. 19: 560–563.)。

避妊手術には、繁殖ができなくなる、太りやすくなる、手術による一時的な体へのダメージなどのデメリットがあります。それを「かわいそう」だと感じる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、避妊手術は乳がんだけでなく、卵巣や子宮の病気の発生率や、発情期の問題行動を抑えられますから、メリットのほうが圧倒的に大きいといえます。

最近はペット保険もありますが、ペットが病気になるとたいてい自費診療となります。高額の治療費を避ける意味もありますが、なにより、家族であるネコが健康を維持しやすくなると思えば、避妊手術を避ける積極的な理由はありません。

とはいえ、デメリットもありますから、避妊手術をするかどうか、いつするかなどについては、かかりつけの動物病院でよく相談して決めてください。

人間と同じようにペットも長寿化が進み、これまで以上にがんに注意しなくてはいけなくなりました。

現在、ネコの死因は腎臓の病気と並んでがんが主要となっており、がんのうち一番多いのが乳がんとされています。ネコが長生きするようになれば今後ますますネコのがんは増えていくでしょう。

ネコの乳がんは早い時期の避妊手術や飼い主さんの日頃からの気配りで、予防や早期発見ができる可能性があります。

大切な家族とできるだけ長く一緒にいるために、これまでやっていなかったという方は、ぜひ今日から、マッサージによるチェックをしてみてください。

中村 進一 獣医師、獣医病理学専門家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかむらしんいち / Shinichi Nakamura

1982年生まれ。大阪府出身。岡山理科大学獣医学部獣医学科講師。獣医師、博士(獣医学)、獣医病理学専門家、毒性病理学専門家。麻布大学獣医学部卒業、同大学院博士課程修了。京都市役所、株式会社栄養・病理学研究所を経て、2022年4月より現職。イカやヒトデからアフリカゾウまで、依頼があればどんな動物でも病理解剖、病理診断している。著書に『獣医病理学者が語る 動物のからだと病気』(緑書房,2022)。

この著者の記事一覧はこちら
大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおたに ともみち / Tomomichi Ohtani

1982年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。同博士課程中退。出版社勤務を経て2015年2月にスタジオ大四畳半を設立し、現在に至る。農学・生命科学・理科教育・食などの分野の難解な事柄をわかりやすく伝えるサイエンスライターとして活動。主に書籍の企画・執筆・編集を行っている。著書に『増補版寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)、『ウシのげっぷを退治しろ』(旬報社)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事