史上最悪の金融詐欺が仕掛けた「一貫性の罠」 「リスクなし」「損しない」という甘いカラクリ

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ここで言うノイズとは、あらゆる複雑なプロセスが本質的に抱えるランダムな側面を指す。冬から春になるとき、気温が毎日1度ずつ上がるわけではない。株価は1日1日、毎週毎週、10年ごとでさえ、大幅に変動する。

「一貫性がない」のは悪いことではない

にもかかわらず、専門家でさえも「ノイズがないのは有望で魅力的だ」と思うことが珍しくない。「ノイズはどこにあるのか?」と問えば、滑らかなパフォーマンスを疑わしい目で精査するきっかけになる。

一般的に、個人も組織も、人間の行動のノイズを排除すべき問題と考えている。けれど、誰かにだまされたくないとき、ノイズは私たちの味方になる。どの程度のノイズが発生するかを予測する単純で普遍的な目安はないが、ある人の成果にノイズがなさすぎて真実とは言い難いかどうか評価するのに役立つ、3つの原理をご紹介しよう。

第1の原理――「人間のパフォーマンスには、意外なほどノイズが多い」
第2の原理――「気づくためにも一貫性に注意を払う必要がある」
第3の原理――「疑わしいパフォーマンスが、第三者のパフォーマンスより一貫性があるかどうか確かめよう」

一貫性の欠如を危険信号と見なすのは不合理なことではない。取り調べのたびに話の内容が食い違う容疑者は嘘をついている可能性が高い。税務申告の際には当局に自分の資産は大した価値がないと言うのに、有利な金利でローンを組みたいときには自分の資産には何倍もの価値があると銀行に言う大物実業家は、きっとどちらかに嘘をついている。

だが、一貫性がないことがすべて悪いわけではない。私たちは「強力なリーダーは信念を絶対変えるべきではない」と往々にして思うし、対抗勢力は、政策転換を「flip flopping(意見をコロコロ変える)」とか「playing politics(政治的利得のために行動する)」と批判する。

しかし、偉大なリーダーは、現実が変われば、考えを変えることを厭わない。新たな事実に対応して信念をアップデートするのは、理にかなっている。

残念ながら、ノイズは不当に悪者扱いされている。私たちはむしろノイズがあるのは当然だと見なし、「ノイズがない」ことを問題にすべきなのだ。

ダニエル・シモンズ 心理学者

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Daniel Simons

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校心理学部教授。同校の視覚認知研究所ディレクター。過去にハーバード大学心理学部の助教授および准教授も務める。カールトン・カレッジで学士号を、コーネル大学で実験心理学の博士号を取得。視覚認知と視覚認識の分野で世界有数の研究者であり、人間の知覚、記憶、認識の限界について先駆的な発見をしてきた。「見えないゴリラ実験」で、2004年にイグ・ノーベル心理学賞をチャブリスとともに受賞している。

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クリストファー・チャブリス 心理学者

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Christopher Chabris

ペンシルべニア州の統合医療機関である「ガイジンガー」教授。行動・意思決定科学プログラムの共同ディレクターおよび行動洞察チームの教員共同ディレクターを務める。過去にハーバード大学やユニオン・カレッジでも教鞭を執る。「心理科学協会(Association for Psychological Science)」フェロー。主な研究テーマは意志決定、注意力、知能、行動遺伝学。シモンズとの共著に『錯覚の科学』(文藝春秋、21カ国で出版)がある。

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