ウォール街でマドフが運営していたインチキ「ヘッジファンド」は、おそらく過去最大かつ最長記録のポンジ・スキームだろう。ポンジ・スキームは、今では、後から参加する出資者の金を既存の出資者の配当金に回す投資詐欺の一種として定義されるようになった。
プロの投資家を信じ込ませたカラクリ
詐欺が明るみに出てファンドが閉鎖される2008年まで、マドフは顧客の金を実際には運用していなかった。名だたる投資家やセレブリティたちが長年にわたり約200億ドルを彼に預け、取引明細書によれば、閉鎖したときのファンドには約650億ドルがあるはずだった。しかし、実際には2億2200万ドルしかなかった。
マドフの詐欺は各方面で詳細に報じられたが、そのしくみやそこから学ぶべき教訓については多くの誤解がある。マドフは突飛な率の運用益を約束しなかったし、損失に対する保証もしていない。彼の投資家たちは非常に世慣れているため派手なポンジのやり口にはひっかからないからだ。
代わりにマドフは、手っ取り早く大金が稼げるスキームではなく、もっと妥当なものを提示した。変動の少ない右肩上がりの着実な成長である。
なめらかな上昇傾向の「一貫性」こそが、マドフのスキーム特有の「価値ある提案」だった。そのスキームを実践している間、市場全体の年間の動きが最高益37%から最大損失25%まで変動しても、彼は毎年7%から14%を還元した。
一貫性は不確実に対する不安を取り除き、リスクを伴うマイナスの結果への恐怖を振り払う。たまに損をしても長期的には取り返せることも含め、ある程度の不確定要素を受け入れる場合でも、損をする危険は避けたいと思う人は多い。
新しいウイルスが既存の免疫を回避するように、マドフのスキームは、(ビットコネクトのような)突拍子もないスキームは避けたほうがいいと重々承知しながらも、「一貫したプラスのリターンなら大丈夫だ」とあくまで信じる投資家たちの間で流行した。
マドフスキームが急激に広まったのは、リスク回避や損失回避に加え、「一貫性を好む」という、人間の別な面に起因していると考えられる。言い換えれば、一貫性の対極にある「ノイズ」への理解不足と不当な嫌悪が原因である。