孤高の天才棋士「豊島九段」を育てた"2人の師匠" 幼き頃の知られざる師匠とのエピソードを公開
現在、藤井聡太名人に挑戦している豊島将之九段。先に行われた第1局、第2局では残念ながら黒星となりましたが、当代最強の名人を窮地に追い詰めたと話題になりました。5月8日、9日に行われる第3局での熱戦も期待されています。
天才と称される藤井名人。豊島九段も、小学3年生のときに史上最年少で棋士養成機関・奨励会に入会し、平成生まれで初のプロ棋士に、そして令和初の名人となった実力者です。どのようにして天才棋士は生まれたのか。幼き豊島九段が将棋の世界に飛び込んだ日のエピソードを、『絆―棋士たち 師弟の物語―』より一部抜粋・編集のうえ、お届けします。
前回の記事:藤井聡太に挑戦「豊島九段」が人との練習やめた訳
豊島将之、当時5歳
1995年6月頃、関西将棋会館の道場に小さな男の子が母親に連れられてきた。手合係をしていた土井春左右に母親は「息子はまだ人が将棋を指しているのを観たことがないんです。見学させていただけますか?」と言った。男の子は5歳になったばかりだという。
土井は長く関西本部で働いてきた。時々、小さい子が親に連れられて道場にくる。上級者・有段者が指している光景は、初めての人には近寄りがたいものだ。「どうぞ入ってください」と優しく招き入れた。
その日はお客が多く、土井は手合に追われて母子を気にかけることはなかった。1時間ほどたった頃、ふと思い出してバイトの青年に「あの子はもう帰ったかい?」と聞いた。5歳くらいの男の子は5分か10分も観たら飽きてしまう。当然もう帰っているだろう。すると青年は言った。
「いえ、まだ観てますよ」
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