「君を温めているのはヤクの糞だ。お湯もヤクの糞で焚いているし、その囲炉裏の燃料もヤクの糞。君は糞に感謝してるんだよ」
そして、ゲラゲラと笑った。奥からオーナーの妻がお茶を持ってきた。
「これを飲んだら温まるわよ。ヤクのバターで作ったお茶。きっと元気が出るわ」
熱いヤクのバター茶を飲むと、喉から胃まで熱さが通っていくのがわかった。体が温まるだけでなく、芯からエネルギーが湧いてくる。
「これ、ヤバいっすね。体に力が入ります」
夫婦は優しい目をして笑った。彼らの笑顔に、ほんの少しだけ目頭が熱くなる。その笑顔には本当に強いものだけが持つ、優しさが滲み出ていた。
「ヤクがいなければチベット族もいない」
かつて、チベットの英雄、パンチェン・ラマ10世は「ヤクがいなければチベット族もいない」と言った。古の旅人も、ヤクの力で極寒の地を乗り越えてきたのだろう。
2000年も昔から、ヤクとともに生きてきたチベットの山岳民族。人々にとってヤクはただの家畜ではなく、かけがえのない仲間に違いない。
塩味のバター茶が体に染み込むたびに、ヤクへの感謝が湧き上がり、ここに住む人々のことをほんの少しだけ理解できた気がした。
*この記事の前半:TVマンが見た「絶滅危惧種と暮すチベット民族」驚く日常(前編)
*この記事の続き:TVマンが見た「絶滅危惧種と暮すチベット民族」驚く日常(中編)
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