ロボット掃除機は"手がかかる"から革命的だ 家電の歴史をひっくり返す進化が始まった

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ロボット掃除機は、こちらが世話をやかないと、ちゃんと働いてくれません。それをみると、人間はどうしても世話をやきたくなるし、語りかけたくなってくる。うちの母親なんて、何かあるたびに「あー、そっちじゃないよ! こっちこっち!」「あ……そこ、通れる?」と語りかけていましたからね(笑)。

そうやって声をかけたり、世話をしたりしているうちに、そこには自然と愛着も生まれてくるし、家族に対するのと同じような情愛すら、生まれてくる。使っているうちに、どんどんかかわり(関係性)が深くなってくる、ということです。

「便利さ」には副作用があった

以前、家電の修理センターで修理を依頼される家電の中で、ロボット掃除機の割合が非常に高いという話を聞いたことがあります。それくらい、ロボット掃除機というのは、人に思い入れを持たせる力を持っている、ということなのでしょう。

いずれにしても、これは非常に面白い現象だと僕は思いました。家電というのはそもそも、人から労力を取り除き、人間の生活を便利にするはずのものだった。そして実際、家電が普及するにつれて、人間の生活はどんどん便利になっていった。

ところが、そこには副作用もあった。便利さを追求した家電が世の中に広まるにつれ、人々はどんどん自分から身体を動かさなくなり、身体を弱らせ、人と話すのが億劫になり、コミュニケーションが滞るようになった。

しかし、そこにきてほかならぬ家電の進歩の最先端に登場したロボット掃除機が、僕らの生活の中に新たなコミュニケーションを呼び込み始めた。「使っている人間に気を遣わせる家電」というのは、僕は本当に面白い存在だと思うし、心理学的な意味で、冗談抜きで革命的だと思ったのです。

 
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名越 康文 精神科医

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なこし やすふみ / Yasufumi Nakoshi

1960年、奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、99年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSコミュニケーションズ、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。
夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」刊行中。オフィシャルウェブサイトはこちら。twitterはこちら

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