ロボット掃除機は"手がかかる"から革命的だ 家電の歴史をひっくり返す進化が始まった

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ロボットがスムーズに動けるように障害物をなくしてあげたり、段差をなくしたり、充電器のところに戻りやすくしてあげたり。うまく動けないときは手動で動かしてあげたり。そういう「お世話」をしてあげないと、上手に掃除をしてはくれない。

お掃除ロボットというのはそういうものであって、うちの母親も、そのことを楽しんでいました。でも、「家電」というジャンルにおいて、「手がかかる」というのは本来、「あってはならない」ことだと思うのです。

「三種の神機」という言葉もありますが、20世紀というのは「家電の時代」でした。冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ……次々登場する新しい家電によって、僕たちの生活は飛躍的に「便利」になった。「便利」というのは、言い換えると「人間の手間や労力を減らす」ということです。

「歴史に反した存在」が起こしたこと

さまざまな家電が普及することによって、それまで大変な労力がかかっていた作業が、ボタンひとつでできるようになった。家電の歴史というのは、僕たちの生活をいかに「便利」なものにするか、という歴史でもあったわけです。

ところが、ロボット掃除機というのはそういう歴史の流れに、ある意味では反した存在といえると思うのです。もちろん、掃除自体はロボットが毎日勝手にやってくれるので、その側面だけみれば「便利」にはなっている。でも、お掃除ロボットと人間のかかわり(関係性)という点でみれば、むしろ、ロボット掃除機というのは、人間の手間や労力をある意味では「増やす」存在になってしまっている。

「手間や労力が増えるんじゃ、使う意味ないじゃないか」と思われるかもしれません。でもこれは実は、家電の歴史において、革命的な出来事だと僕は考えているのです。

なぜなら、「手間や労力がかかる」ということは、同時に、人間からコミュニケーションを引き出す、ということでもあるからです。

家電が普及し、生活の利便性が高まる中で僕たちが失った「コミュニケーション」を、ロボット掃除機という「手がかかる家電」は取り戻そうとしているように僕には見えます。

もちろん、「コミュニケーション」といっても、ロボット掃除機が言葉を話すわけではありません(言葉を話す家電、というのもありますが、それはまた別のお話)。でも、ロボット掃除機というのは、それを使う人間に、世話をやかせたり、語りかけたりさせる力を持っている。いわば使う人間をインスパイアする家電なのだと思うのです。

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