ツルハがイオン傘下へ「ドラッグ2兆円連合」の波紋 ファンドから全株取得、イオン急接近の背景

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実際にイオン子会社となれば、独自路線を貫けるかは不透明だ。流通業界を長年担当しているアナリストは「イオンの子会社になり、収益性が改善した会社はごくわずか。資本を握られてしまえば、将来的にツルハもイオンのグループ内再編に巻きこまれる可能性も否定できない」と指摘する。

2兆円規模のドラッグ連合結成で得られるスケールメリットは大きい。電力の一括仕入れや物流の効率化などで採算改善が期待される。さらに両社とも化粧品や医薬品の売上構成比が高く、商品の帳合(仕入れ条件)を一致させれば粗利率の改善も期待できる。

ある卸売業幹部は「帳合が厳しい方向に流れることは間違いなく、苦しくなる」と懸念する。ツルハの地盤である北海道は、ウエルシアにとって手薄エリアであり補完関係もある。

一方で「ドラッグストア業界は成熟期になり、価格競争の激化や人口減少により競争は一段と厳しくなっている」(松本社長)。ツルハとウエルシアが主戦場とする郊外はオーバーストア状態で、1店舗当たりの採算性が低下傾向にある。

コスモス、マツキヨ、スギの三つどもえ

足元では物価高騰に伴い、食品を軸に「毎日安売り」をうたう業界4位のコスモス薬品が、地盤の九州から猛烈な勢いで北上を進めている。ツルハの店舗が多く利益頭の東北では、中堅ドラッグの薬王堂HDが「毎日安売り」で勢いを増しており、競争環境は厳しさを増す一方だ。

都市部の好立地は、業界3位で2021年に経営統合したマツキヨココカラ&カンパニーが押さえている。利益率の高い医薬品や化粧品が都市部では売れやすく、インバウンドの恩恵も受けやすい。

顧客データを生かしたマーケティング力にも定評があり、花王は「新ヘアケアブランドはマツキヨココカラなどで先行発売し、顧客IDを活用しながらマーケティングを一緒に行っていく」(ヘアケア第1事業部の野原聡ブランドマネジャー)。ライバルとは一線を画す立ち位置を確立している。

2月27日には、業界6位のスギHDが阪神調剤薬局などを展開する売上高2200億円規模のI&Hの買収を発表。上位争いに躍り出た。

かねて鶴羽社長は、ほかの小売業界のように「最終的に2~3社程度になるという気持ちで取り組んでいきたい」と語っていた。2兆円規模の巨大なドラッグストア連合の誕生は、本格的な業界再編の呼び水となるのか。イオン傘下入りを選んだツルハの今後は、波乱含みだ。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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