日本の「絵本」は世界に通じるコンテンツになる エフェクチュエーション理論で読み解く(後編)
「EHONS」が短期間に事業化して立ち上げられた背景には、挑戦へのハードルを下げて素早く実行に移したことが貢献したと考えられます。
より具体的にいえば、自分が使える資源と「何を失ってもよいか」を評価して、成功が確実であるから挑戦するのではなく、失敗に伴う損失が許容できる範囲の中で挑戦できたということです。
エフェクチュエーションでは、このように最悪の事態が起こった場合の損失を見積もり、その許容可能性に基づいて実行する思考様式を「許容可能な損失の原則」と呼びます。
ここでいう損失には、資金の他に、時間や労力、社内外の協力者からの期待、犠牲にした別の機会などがあります。
店舗の責任者として売り場作りについて大きな権限を与えられていた篠田氏は、社内のキーパーソンである常務取締役の理解を得たうえで、手持ちの資源を活用できる新規事業に速やかに着手しました。
仮に「EHONS」で期待どおりの成果を上げられなくても、失敗から学習して次の取り組みに活かすことができれば、会社としてはもちろん、篠田氏個人も、その後の成功確率を上げることができます。
幸いにも「EHONS」の場合は失敗することなく、絵本ファンや作家のフィードバックを受けて、より高度な経験価値を顧客に提供するための試行錯誤を現在も続けています。
新規事業開発における不確実性に対処するうえでは、このように合理的に試行錯誤を繰り返すことが欠かせません。また経営層には、組織全体で損失を一定許容できる範囲を設定したり失敗を受け入れたりしながら、新たな機会を創り出す企業内起業家を支援することが求められます。
パートナーのコミットメントを引き出す
新規事業をスタートするにあたって篠田氏が最も力を入れたことの1つが、チーム作りでした。