「働かない若者」は本当に日本だけの現象なのか? 日本とアメリカにおける「静かな退職」の比較

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日本社会はアメリカのそれのように人の流動性は高くない。それは、いわゆるジョブ型雇用ではなく、メンバーシップ型雇用が理由だが、そのメンバーシップ型の雇用環境の中で(特に若手の)退職者を出すことは、組織にとって大きな痛手となる。つまり若手の退職は、日本社会において、より大きなインパクトをもたらす。

「働かないおじさん」が、若手に与える影響

もう少し、日米の若者の労働文化の違いを見ていこう。クアルトリクス合同会社は、興味深い調査レポート「2023年従業員エクスペリエンストレンド」を公表している。この調査は、世界27の国と地域を対象にしたグローバルレポートと、日本独自に追加調査を実施した日本レポートがある。日本レポートでは、正社員として雇用されている18歳以上の就業者4157人が回答している。

この調査では、Quiet Quitterを定量的にあぶり出すべく、「自発的貢献意欲」の度合いが高・中・低のうち「低」に該当し、かつ「継続勤務意向」の度合いが高・中・低のうち「高」に該当する人を「静かな退職状態にある人」と分類している。

こうすることで、「自発的に仕事する意欲はなく」(=自発的貢献意欲の「低」に該当)、でも「辞めずに在職し続ける」(=継続勤務意向の「高」に該当)人を特定している。実に絶妙なグルーピングだ。

分類の結果、この自発貢献「低」×継続勤務「高」の割合は、40~50代の中堅社員に多いという傾向を浮かび上がらせた。逆に20代は相対的に少なくなっている。

調査の主幹である市川幹人氏が、この調査結果から浮上した「静かな退職状態にある人」について、「管理職ではなく、最低限のことをやって給与をもらいたいという一般社員が(40~50代該当者の)中心」と雑誌のインタビューに答えている。

この結果に鑑みると、日本では、「静かな退職」というより「働かないおじさん」と呼称される人たちに近い印象だ。

さらにこの集団を「学習意欲が低く、仕事による承認や報酬にも興味を示さない傾向にある」と評している。会社としても上司としても、実に悩ましい存在だ。

『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

ただ、「働かないおじさん問題」は、(悪意のこもった名称は別にして)本人や一部署の問題ではなく、つまりは本人の責務ではない日本社会全体の課題だとする傾向が強い。多くの場合、本人が望んでそのポジションに収まったわけではないことを考えると、僕も同意見だ。

この問題に対する分析や論考は、すでに多くの書籍等で扱われているため、ここではこれ以上取り上げない。

むしろ、僕自身が明らかにしたいと思っているのは、「働かないおじさん」の存在が若手に与える影響だ。2022年4月に株式会社識学が、従業員300人以上の会社で働く20~39歳の男女300人を対象に実施した調査によると、所属する会社に「働かないおじさん」がいると答えた割合は49.2%で、このうち「特に悪影響はない」と答えたのは9.0%しかいない。

別名「妖精さん」という名の通り、日々の業務に対して害があるわけではなさそうだが、生産性が低いわりに高給となると、やはり放っておけない存在となる。

金間 大介 金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授

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かなま だいすけ / Daisuke Kanama

北海道生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、 東京農業大学准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。主な研究分野はイノベーション論、技術経営論、マーケティング論、産学連携等。著書に『イノベーションの動機づけ:アントレプレナーシップとチャレンジ精神の源』(丸善出版)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)など。

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