「皆婚→難婚→結婚不要」社会に至る深刻なワケ 結婚しない若者の増加は中高年世代に責任も

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だからなのか、女子学生には「専業主婦」希望者がいまだ半数に及びます。先輩の話を聞いていて、「朝から夜まで働かされるのはつらい」という意見です。

その一方、“一家の大黒柱”と目される側の男子学生は「理想とする結婚スタイル」として、「ダブルインカムが大前提」と語るケースが多くなったのが印象的でした。

すでに20歳前後にして、男女の結婚観に大きな乖離、すなわちミスマッチが生じていることが窺えます。これは30年前に起きていたミスマッチ、つまり「男性は妻に家庭に入ってほしいが、女性は子どもが生まれても働き続けたい」とは真逆のものでもあるのです。

しかし仮に、望み通りに「働く妻」を得られ、「ダブルインカム」になったところで、かつてのような可処分所得の多い裕福な夫婦、いわゆる「パワーカップル」になれるとは限りません。

5割に迫る国民負担率が結婚を遠ざける

今や国民負担率が5割に迫る日本です。所得に占める税と社会保障負担を合わせた比率が「国民負担率」ですが、現在の学生が生まれた約20年前の2000年には35.6%だったのが、2023年には46.8%になる見通しです。

さらに上の祖父母世代に当たる1970年には24.3%だったことを考えると、その差は歴然としています。

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所得の4分の1を税として納める国から、その半分が税金(プラス社会保険料)として徴収されてしまう時代へ。その結果生まれたのが「結婚不要社会」だった、というのが私の見立てです。

「結婚は皆がするもの」から、「結婚が難しい社会」へ、そして「結婚などそもそもしない方がリスクは少なく生活していける」社会へと、日本社会は変遷していったのです。

いくら「結婚」は本人の自由意志とはいえ、社会全体の前提がここまで大きく変化してしまったことは、私たち中高年世代の責任とも言えるかもしれません。

「結婚しない若者」を、「自分勝手」と評することはできないということです。

山田 昌弘 中央大学 文学部 教授

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やまだ・まさひろ / Masahiro Yamada

1981年、東京大学文学部卒業。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。

親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。また、「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。『結婚不要社会』、『新型格差社会』、『パラサイト難婚社会』など著書多数。

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