シニア人材は「野村再生工場」方式で再活躍できる 野村克也氏の選手指導法をビジネスにも応用
野村克也氏といえば、その育成力にも定評があります。
中小企業における配置転換においても、「教育」とくに「再教育」は重要な意味を持ちます。最近は「リスキリング」というキーワードで、経営の重要課題とも認識されています。
たとえば、従来型の営業職から、デジタル技術を用いた新規顧客開拓の部署に異動させたとしましょう。まずはとにかく、いままで経験したことのない部門に関しての知識を身に付けてもらわなければなりません。
しかし、たとえ研修や外部セミナーに参加させても、新しい物事への適応がうまくできないミドル・シニア人材もいます。「この年で新しいことに取り組むのは……」「デジタルは苦手で……」といった理由が考えられます。
「アウトプット型」学習でデジタルにも挑戦
これを乗り越える秘訣が、「アウトプット型」学習、すなわち受講した本人に「行動してもらう」学習法です。逆に「インプット型」、つまり人の話を「聞くだけ」、動画を「見るだけ」では新たな知識は身に付きません。
とはいえ、いきなり業務のなかで「行動してもらう」というのは難しいものです。そこでお勧めの方法が、研修・セミナーに参加した後に、レポートを書いてもらうことです。
最初は、図表2に掲載のサンプルのように、会社が指定した様式を埋めてもらうだけでもかまいません。受講直後に目に見える形で成果物ができたという達成感が、自己効力感、すなわち「目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること」につながります。
人間誰しも、「自分にできない」と思っていることに、真剣に取り組むことはできません。会社からの「あれをやれ、これをやれ」という指示だけでは真剣になれなかった人を変えるのが、自己効力感なのです。
しかし、自己効力感「だけ」ではうまくいかないのも現実です。配置転換を告げる面談の際にも必要だった「適切な危機感」を持つための、継続的な仕組みを作成しましょう。それが、上司によるレポートのチェックです。
ミドル・シニア人材に限らず、学びが進まない、あるいは仕事の成果が上がらない人は、上司とのコミュニケーションが決定的に足りていないものです。
本来であれば、すぐに上司にアドバイスを求めるべきです。しかし、そのような人は、なかなかそうはできません。
オフィスの片隅で、「なぁ、あれ、わかった?」「いや、ぜんぜんダメ」「だよなぁ。オレたちには無理だって……」。そんな不毛な会話が交わされていることは、容易に想像できるでしょう。