健康の人から「便を移植する」と体に何が起るのか 腸内の悪い菌と戦う「IgA抗体」って何?

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瀧口:IgA抗体は、悪い菌をやっつける抗体なんですね。

新藏:そうです。私たちのお腹の中には、100種類以上の腸内細菌がいます。それと同じように、リンパ球から作られるIgAも何百種類とあります。

例えば、有名な免疫療法薬の「オプジーボ」を3~5g作ろうとするだけでも、工場で300L~500Lのタンクに入れて培養しなければなりません。ですが、私たちのお腹の中では、成人であれば1日に3~5gのIgA抗体を毎日分泌していて、腸内細菌と戦ってくれています。私たちの腸は、それくらいすごい量の抗体を作る工場なんです。

そして、そのIgA抗体には悪い菌だけをやっつけてくれるものと、乳酸菌やビフィズス菌などのいい菌を「あなたたちは、ずっとお腹の中にいなさい」と指示を出しているものがあります。私は、お腹の調子を悪くする悪い菌だけを選択的に抑制するIgAを取ってきて薬にしようと思っています。

加藤真平(以下、加藤):腸内について研究している先生方は、IgA抗体はご存じなんですか。

合田圭介:名前は知っています。ただ、本当に膨大な種類があるので、1個1個の機能などはわかりません。

新藏:おっしゃる通りです。IgA抗体がいいというのはわかっています。ですが、例えば悪い菌の代表である大腸菌と相互作用させたときに、IgA抗体が大腸菌に何をしているのかがわからないんです。細胞表面に着くということはわかっているんですけど、くっついた後に何をするのかがわからない。

ただ、世の中にはIgA抗体がない人がいて、そういう人はやはり腸内細菌があまりいい状態にはなっていません。今の研究ではIgA抗体が非常に重要な働きをしているということしかわからないんです。

便を移植されると、性格が変わる

合田:新藏先生にお聞きしたいんですが、便移植した後に、その人の性格が変わったという報告があるんですが、本当なんですか。

新藏:どうなんだろう。「本当かな?」とは思います。でも、違う菌が入ると、その菌の作った代謝産物が神経系にも影響を及ぼすことは十分に考えられます。腸内細菌を変えることができたら、いろんな病気に効果があると思うので、私は健康長寿のために腸内細菌をIgA抗体でよくして病気の発症をなるべく減らしたいです。それが夢ですね。

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新藏 礼子 定量生命科学研究所免疫・感染制御研究分野教授

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しんくら・れいこ / Reiko Sninkura

京都府生まれ。1986年京都大学医学部医学科卒業。同年麻酔科臨床医として病院勤務。1992年京都大学大学院医学研究科分子生物学大学院生、続いて研修員。1999年ハーバード大学こども病院留学。2003年京都大学大学院医学研究科分子生物学、寄附講座免疫ゲノム医学助手、講師、准教授。10年長浜バイオ大学バイオサイエンス学部バイオサイエンス学科生体応答学教授。2016年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科応用免疫学教授。2018年東京大学分子細胞生物学研究所(現・定量生命科学研究所)免疫・感染制御研究分野教授。

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瀧口 友里奈 経済キャスター

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たきぐちゆりな / Yurina Takiguchi

1987年神奈川県生まれ。東京大学文学部社会学専修卒業。SBI新生銀行社外取締役。在学中にセント・フォースに所属して以来、『100分de名著』(NHKEテレ)、『ニュースモーニングサテライト』(テレビ東京)、『CNNサタデーナイト』、経済専門チャンネル『日経CNBC』等の司会やキャスター。また、日米欧・三極委員会日本代表を務めるほか、2021年より東京大学工学部 アドバイザリーボードを務める。また、東京大学公共政策大学院の修士課程に在学中。2023年「東大教授が語り合う10の未来予測」発刊

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