勘違いから一転、新種新属の恐竜を発見するまで ウズベキスタンまで駆けつけて得られた成果

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体の大きさは肉食恐竜において重要である。大型の方が、より生態系で上位の恐竜と考えられるからだ。ウルグベグサウルスはティラノサウルスのご先祖様のティムレンギアを差し置いて、当時の生態系の頂点に君臨していたようだ。

当時、カルカロドントサウルス類とティラノサウルス類が共存していたことを示す証拠だ。共存の記録として、白亜紀後期の9000万年前というのは比較的新しい。それまでの共存の証拠はもう少し古い時代(ジュラ紀後期や白亜紀前期)だった。

つまり、ティラノサウルス類が北半球で勢力を拡大し、カルカロドントサウルス類が北半球から撤退するのは少なくとも9000万年前よりも後の時代、ということになる。ウズベキスタンでの発見が、肉食恐竜の競争の歴史に、新たな情報を加えてくれた。

骨ひとつでも侮れない

あの時、留学生のオタベック君が「恐竜化石を見つけましたよ」と言って私の部屋にやってこなかったら、ウズベキスタンに行くことは決してなかっただろう。

あるいは、運よくフェルガナ盆地で化石が見つかっていたら(それはそれで最高だけれども)ウルグベグサウルスにはたどり着けなかったかもしれない。

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どっちにしても、オタベック君の一言からすべては始まったのだ。フェルガナ盆地で化石が見つからなかったのは失敗ではない。いや、失敗しても良い。失敗から新たなプロジェクトが生まれるのだ。ウズベキスタンでの経験は、失敗を恐れずに突き進めと、私たちを鼓舞してくれた。

もちろん、これですべての研究が終わったわけではない。私たちのウルグベグサウルスの研究結果に異議を唱える研究者もいる。古生物学は往々にして、タイムマシンでもない限り、正解にたどり着くことができない学問である。

正解に近づくためには今後、さらなる調査が必要である。もしかしたらまだ、ウルグベグサウルスの残りのパーツがどこかに眠っているかもしれないのだ。

田中 康平 筑波大学 生命環境系 助教

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たなか こうへい / KOUHEI TANAKA

筑波大学生命環境系助教。北海道大学理学部卒、カナダ・カルガリー 大学大学院地球科学科修了(PhD)。恐竜の巣づくりや子育ての進化を解き明かすため、卵や巣、赤ちゃんの化石を研究している。著書に『恐竜学者は止まらない! 読み解け、卵化石ミステリー』(創元社)、『最強の恐竜』(新潮新書)など。

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