勘違いから一転、新種新属の恐竜を発見するまで ウズベキスタンまで駆けつけて得られた成果
そこで私は考えた。いろいろな肉食恐竜で上顎骨の長さと全長を調べ、両者の間に比例関係(正確には相関関係)が見られれば、上顎骨の長さから全長を推定できるだろうと。
さらにデータを集めて統計分析をすると、予想通り、高い相関関係が得られた。上顎骨が大きい種ほど、全長も大きくなる。この関係は簡単な式(y = ax + bという回帰式、中学校でやったよね)で表すことができる。
この式にウズベキスタンの標本も当てはめると、全長は7.5~8メートルくらいとはじき出された。全長12メートルに達するティラノサウルスやギガノトサウルスにはかなわないが、そこそこ大きな肉食恐竜だ。
これは新種新属の恐竜である
9000万年前のウズベキスタンには、やはり小型のティラノサウルスの仲間であるティムレンギアを凌駕する肉食恐竜が存在していた。上顎骨をさらに調べると、他のどのカルカロドントサウルス類にも見られない固有の特徴がいくつかあった。
例えば、骨の表面にミミズ腫れのような縦じわが入っていたり、前眼窩窓とよばれる大きな穴の縁部分にこぶ状の隆起が見られたり、といった具合だ。ひとつだけの骨だが、4つも新しい特徴を見出すことができた。この発見により、新しい種類の恐竜であることは確定的となった。
私たちはこの恐竜を、新属新種のウルグベグサウルス・ウズベキスタネンシスと名付け、発表した。
「ウルグベグ」という学名は、15世紀にウズベキスタンなどの地域を統治していたティムール王朝の君主、ウルグ・ベグにちなんでいる。ウルグ・ベグはティムール王朝の創始者であるティムールを祖父に持ち、数学者や天文学者としても名を馳せたという。
恐竜学者の北海道大学・小林快次先生とタシケントの街中を歩いていた時、たまたまウルグ・ベグの銅像に出くわしたことがある。後から気が付いたのだが、私たちが歩いていたのは「ミアゾ・ウルグベグ通り」というウルグ・ベグを記念した通りだったのだ。
私はテンションが上がり、パシャパシャ写真を撮りまくった。小林先生はいたって冷静である。銅像を見る限り、ウルグ・ベグはマッチョでイケメンだった。文武両道、およそ非の打ちどころがない、頼れるリーダーだ。地球儀を脇に携え、彼方を見つめるウルグ・ベグ像を前に、小林先生はこう呟いた。
「王さまで科学者でイケメン? そんな完璧なやつ、いるかい?」
私はウルグ・ベグマッチョ説を信じたい。
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