歴史上の「絶世の美女」はどんな顔をしているのか 現代に残る絵巻物や浮世絵からわかること

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なお、この物語には観音様信仰の要素も入っています。観音霊験譚、要するに神様仏様に信心をするといいことがありますよというストーリー展開も、当時はよくあるものでした。『男衾三郎絵詞』は、「継子いじめ」と「観音霊験譚」の二つの要素が詰まったハイブリッドな作品です。気になるのが、この『男衾三郎絵詞』の絵です。

絶世の美少女の絵を見てみると、いわゆる引き目・かぎ鼻に加えて、あるかわからないような小さなおちょぼ口にしもぶくれの顔、長い黒のストレートヘア。すなわち「おかめ」でした。「おかめ」が美人とされるのは、『平家物語絵巻』や『源氏物語絵巻』などでも同様なので、特に気にはなることではありません。

現代の感覚とは異なる「不美人」

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問題は、不美人の描かれ方です。親を亡くした薄幸の美少女に対して、継子いじめをする家の娘は、物語の都合上、非常な醜女として描かれています。

ところが、その子の様子を見ると、髪の毛は、まるでパーマをあてたようなウェーブするくせっ毛。続いて、目はぱっちりしているし、鼻も高い。私たちの感覚からすると、「あれ、こっちのほうが美人なんじゃないの?」と思ってしまいます。しかし、当時の感覚では、こちらはあくまで醜女です。

この絵巻を見ると、人間の美的な感覚は時代と共に移り変わるものだということが、よくわかります。

本郷 和人 東京大学史料編纂所教授

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ほんごう かずと / Kazuto Hongo

1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。文学博士。東京大学、同大学院で、石井進氏、五味文彦氏に師事。専門は、日本中世政治史、古文書学。『大日本資料 第五編』の編纂を担当。著書に『日本史のツボ』『承久の乱』(文春新書)、『軍事の日本史』(朝日新書)、『乱と変の日本史』(祥伝社新書)、『考える日本史』(河出新書)。監修に『東大教授がおしえる やばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。

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