長崎「正覚寺下」行き路面電車、ブラジルを走る意外 64年間、市民と共に走った電車の「第二の人生」

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唯一異なるのは車両中央に連なる車内広告がないことで、その代わりに長崎の観光地や原爆投下により路面電車の多くが破壊された歴史などを紹介したボードが掲示されている。

車内の隅々を撮影している最中に乗り込んできた路面電車の運転士が「日本からのものはそれだけじゃないですよ。ほら!」と、車両後方の片隅の業務用ホウキを取って見せてくれた。確かにブラジルにはなさそうな長さのホウキの柄には「206」とマジックペンで手書きされている。

ジョズエ・モンテイロ・ドゥアルテ氏(57)は観光路面電車開通以来、日々車両を運転してきたベテラン運転士の1人。

「サントスにはいろんな車両がありますが、操縦の仕方はほとんど同じです。でも、この車両は運転席まわりのすべてが日本語だけで書かれていますから、最初は戸惑いましたよ」と笑顔で、年季の入った操縦レバーをさすりながら語ってくれた。

車内の隅々を案内してくれたドゥアルテ運転士(写真:筆者撮影)

サントスゆかりのコーヒーとともに

さてこの206号には他の車両たちとはちょっと異なる仕事がある。それは、毎週金曜日と土曜日に「コーヒー路面電車(Bonde Café)」として、4便運行するというもの。これは旧市街地に立つコーヒー博物館とのコラボ企画で、車両走行中にバリスタがコーヒーを淹れ、乗客にサービスする。

このような企画が可能なのは、「動く博物館」のうち206号が唯一ロングシートの車両であり、バリスタがゆっくり走行する車内を歩き回ることができるためだ。

かつて長距離列車のターミナルとして使われていたバロンゴ駅の前から出発する「コーヒー路面電車」は、音声ガイドでサントスとコーヒーの歴史、206号の由来、街の名所案内などを放送しながら、コーヒー博物館、税関、郵便局など旧市街の要所を周回する2.8キロのルートを25分かけて巡る。

長崎での64年にもおよぶ現役生活を終えたあともなお、ブラジルで活躍する206号。いつまでも人々に求められ、愛される「第二の人生」は、ここサントスで輝いている。

仁尾 帯刀(海外書き人クラブ) ブラジル・サンパウロ市在住フォトグラファー

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にお たてわき / Tatewaki Nio

ブラジル在住25年。写真作品の発表を主な活動としながら、日本メディアの撮影・執筆を行う。主な掲載媒体は「Pen」(CCCメディアハウス)、「美術手帖」(美術出版社)、「JCB The Premium」(JTBパブリッシング)など。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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