ドイツと日本「クリスマスマーケット」の決定差 ドイツ人がマーケットで幸福を得られる理由

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人口5000人ほどの、ある自治体のクリスマスマーケットは3日程度と開催期間は短いが、そこに住む50代の女性は毎年心待ちにしているという。「小さい町だけど、中世に『都市の資格』を持った歴史ある町で、中心地の古い建物とマーケットがとてもよくあう」と自慢げに話してくれたことがある。この女性は何年か前にこの町に引っ越したが、それでも「郷土愛」のような感情を抱いているのがわかる。

これは古い都市と伝統的な行事の組み合わせが「セット」であることを示している。ドイツの若者が日本のクリスマスマーケットを訪れた際、「古いカルーセルも置かれていたが、何かが違う。それはドイツの古い街並みの中で行われていないからだ」と感じたことを聞かせてくれたことがあるが、それは街と市場がセットになっていないからだろう。クリスマス市場の「ほっこりした感じ」は、都市と一体のものなのだ。

クリスマス仕様の「都市社会の居間」

最後に、中心市街地についてもう少し掘り下げる。クリスマスマーケットに使われる広場は、年間を通じてさまざまなイベントや文化関連のフェスティバル、選挙活動、デモなどに利用される。余暇から政治まで幅の広い「青空の公民館」のような空間だ。自治体も居心地の良さを追求しており、中心市街地は「都市社会の居間」とも呼ばれる。

つまり、クリスマスマーケットは「都市社会の居間」がクリスマス仕様になる期間である。ドイツの冬は鉛色の空が広がる日が多いが、そんな中、故郷のような「ほっこりした場所」が作られ、友人・家族と過ごし、時には誰かと知り合ったり、親しくなる機会が持てるわけだ。

複数の研究によると、社会的なつながりができたり、人々と交流することで、人はポジティブな感情を抱くことが多い。そして、特徴ある歴史的建築物のアンサンブルがある空間は、安心感や親しみを持つことにつながる。

加えて友人や知人がいる町は、たとえ生まれ育った町でなくても「故郷のような感情」を持ちやすい。これが、ドイツ人にとってクリスマスマーケットが幸福な冬のオアシスである理由だ。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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