これによれば千年町駅前には夕張千年郵便局、鹿島駐在所、相馬屋旅館、ちとせ板金塗装、双葉食堂、その他何軒かの商店や診療所などさまざまな施設が建ち並び、さらに駅の西側には妙法寺、願正寺、大聖寺、本覚寺と各宗派4つの寺院が軒を接していた。それぞれが炭鉱町の日常を支えていたのである。
「幻の地名」は福井にも
さて、福井県を流れる九頭竜川(くずりゅうがわ)の上流部には昭和43年(1968)に九頭竜ダムが完成した。当初は電源開発目的で、その後は伊勢湾台風で被災した九頭竜川流域の防災に力点が置かれている。
ダムから上流部はほとんど人家がないが、かつては14の集落があり、多くは江戸時代からの長い歴史を持っていた。貯水面積は8.9平方キロで、集落の一部は水没を免れたものの、単独では生活が成り立たないこともあり、結局は500戸前後(資料により相違あり)が水没または撤去、補償を得て移転した。
無人境を走る湖畔の国道158号と付近の県道に架かる大谷橋(おおたにばし)、箱ヶ瀬(はこがせ)トンネル、面谷橋(おもたにばし)といった名称はいずれも水没した集落の名前である。郵便番号の設定された集落とない集落が混在しているが、設定時期にドライブインなどを含む家屋の有無が影響したのだろうか。場合によっては夏だけ人が戻る荷暮(にぐれ)のような集落もある。
いずれにせよ集落が姿を消した今、地名は「帳簿上」の存在に過ぎず実体はない。地図上には表示されず、その郵便番号を記入して手紙を出す人もいない。まさに幻の地名である。
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