高齢ドライバーの免許「強制取り上げ」はできる? 法的にそのようなことは可能か弁護士が解説

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高齢ドライバー対策は喫緊の課題で、各自治体や警察などで「自主返納」を推奨しているものの、車が生活に必要な地域では自主返納も簡単ではない。

そこで、ネット上でしばしば話題となるのが「強制返納」「一定年齢での免許自動取り消し」だ。高齢者の事故が発生した際にはSNSなどで「制度で一方的に免許を取り上げるべき」という声が飛び交う。

自主返納の場合、いくら家族が心配しても本人に返す意思がなければ、基本的にはどうしようもない。強制的にでも運転できる“資格”を奪って交通事故を防ぐ。これが免許を取り上げるべきという意見の趣旨だろう。

しかし、認知機能検査と高齢者講習などをパスして免許を保有しているドライバーから、一方的に取り上げることは法的に可能なのだろうか。「一定の年齢で区切って自動的に免許を取り消す制度にすることには合理性がある」という猪野亨弁護士に解説してもらった。

制度の限界「自覚のない高齢者は返納しないまま」

高齢であるがゆえに認知機能や運動機能が衰えるのは避けられません。全ドライバーが早晩、自分自身もそうなっていくという自覚が必要です。

免許の自主返納は制度が始まってから増加傾向にありましたが、最多件数を記録した2019年(60万1022件)以降は低下し続けています。

運動機能などが衰えたことを自覚した高齢者が自主返納に応じたにすぎず、自覚のない高齢者は返納しないままです。本来、返納してほしい高齢者が返納しないという自主返納制度の限界といえるでしょう。

高齢ドライバーによる事故が起きるたびに「なぜこの年齢の人が運転免許証を保有しているのか」という当然の疑問が「自主返納に応じなければ強制返納させよ」という意見につながっていくものと思われます。

現在は、75歳以上になったら更新の際、認知機能検査と高齢者講習、運転技能検査(該当者のみ)を必要とします。

検査をパスしたドライバーから免許を強制的に取り上げる手段はありません。家族が取り上げて勝手に返納することもできません。

もし仮に家族が免許証を隠したとしても、「紛失」として再発行を受けることができます。取り上げることでトラブルになれば、家族間の負担はより一層増すばかりです。

ネットなどで話題としてあがる「強制返納制度」が、家族が判断して高齢ドライバーの免許を強制的に取り上げて返納するものだとすれば、それは制度として不可能だと考えます。

仮にこの制度を設けようとした場合、免許保有に家族の同意権を与えるようなものですが、強制返納できる要件をどのように設定するのかという問題があります。

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