「暴走老人」を生んでしまう日本の根本的な病巣

車以外の移動手段が貧困な社会にも問題あり

都心部はともかくそれ以外の地域では高齢者の免許返納後、移動の選択肢が限られる、あるいはなくなってしまうのが今の日本だ(写真:CORA/PIXTA)

2019年4月、東京・池袋で突然車が暴走して2人が死亡、9人が重軽傷を負った池袋多重衝突事故。自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告は当時87歳という高齢であったことから、加齢で体の機能が低下した人が運転してとんでもない事故を起こしたことに社会の大きな関心が集まった。

池袋の事故以外にも高齢者による自動車事故は枚挙にいとまがない。2016年10月、横浜で小学生の列に87歳の男性が運転する軽トラックが突っ込み、小学1年生の児童が死亡した。

2018年5月、茅ヶ崎では4人が死傷する事故があり、ドライバーは90歳の女性だった。81歳の男性が対向車線にはみ出したまま猛スピードで交差点に突っ込み、9人が死傷した福岡の事故は2019年6月だった。同年10月には群馬・館林で85歳の男性が運転するクルマが駐車しようとした際に急加速し3人をはね、1人が死亡。同年12月にも関越自動車道で逆走した80歳男性のクルマと対向車が衝突し、2人が重軽傷という事故が発生している。

高齢者がクルマを運転せざるをえない日本

どうして彼らはクルマで出かけたのか?

クルマ以外の代替手段はなかったのか?

拙著『移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』でも問題提起しているが、あまりにもクルマに依存する社会を長きにわたって続けるとともに、刻々と進展する超高齢社会の負の側面が垣間見える。

どこかへ出かける――「移動」は人類が持つ優れた本能の一つでもある。人間が人間らしく生きていくための権利の1つだ。「あなたは高齢者なのでお出かけしないでください」なんて言えるだろうか。

東京品川の南大井にある一般社団法人高齢者安全運転診断センターではドライブレコーダーを使って、高齢ドライバーの運転能力を客観的に分析し運転指導を行っている。高齢者にできるだけ長く安全運転をしてもらうために、運転の癖を把握、自らの意思で免許返納をするきっかけを与える仕組みを運用している。

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