「暴走老人」を生んでしまう日本の根本的な病巣 車以外の移動手段が貧困な社会にも問題あり

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同センター専務理事の石田浩氏は「高齢者安全運転診断サービス」開発の経緯を次のように語ってくれた。

「8年前、長く乾物屋を営業していた父親の運転免許証を高齢を理由に半ば強制的に取り上げたことがあります。軽自動車で毎日仕入れに行っていたのですが、父が年老いていくのを見て心配になってしまったからです。
います。

この免許証を取り上げたことが父の自尊心を傷つけてしまったんです。商売をやめて、引きこもってしまい、一気に老け込んでしまいました。そんな父に代わって、母が家のことをすべて回さないといけなくなり、大変な苦労をかけてしまいました。すまなく思っています。

もちろん、高齢者による痛ましい交通事故のニュースを見るたび、免許を返納させたことは間違っていなかったとは思いますが、後悔の念が残りました。

もし、客観的なデータに基づいて運転継続の話が父とできていれば、強制的に取り上げることはなかったのではないか、今でも父は元気に出かけていたのではないか、との思いが「高齢者安全運転診断」の開発の始まりでした」

免許返納を強制することで傷つけられる自尊心

石田専務理事が語ったように、免許返納を強制してしまったことがきっかけで自尊心を傷つけられ社会とのつながりをなくしていくケースは少なくないのではなかろうか?

現代のクルマ社会である日本においては、運転免許証は「強い身分証明書」の1つでもある。社会生活上、その人が本人であることを証明したり、どのようなクルマが運転できるか法的資格を示すために用いられたりしている。現在社会において運転免許証を保持していること、すなわちクルマの運転ができることは、独立した社会人たることの承認を周囲から得るための身分証明であり、そのため本人にとっては心の誇りでもあろう。

代替手段を持たない場合、クルマの運転ができなくなった瞬間に人間社会から弾き飛ばされ窓を閉ざされてしまったように感じる高齢者が多いように思われる。免許証の存在がいかに大きいものであるかを如実に物語っている。心の誇りである運転免許証。その返納は高齢ドライバーにとって非常に大きな決断となることがよく分かる。しかもその決断はたやすくない。

次ページ免許返納問題は「第2の介護問題」
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