「暴走老人」を生んでしまう日本の根本的な病巣 車以外の移動手段が貧困な社会にも問題あり

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免許返納を機に、老いに埋没し引きこもってしまうのか。あるいは免許返納の事実を客観的に捉えて、新たな生活様式を築いて、より素晴らしい人生を全うするか? 免許返納は本当の意味での「老い」の正しい入り口かもしれない。

また、免許返納後の新しい生活様式をうまく始めることができず、高齢者の生活の面倒をみるため仕事を辞める家族もたくさんいるようで、働き手の不足を助長するような状況にもなっている。日本は国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上の高齢者となる2025年問題を抱えている。医療や介護分野での人手不足が深刻化する上に、ただでさえ生産年齢人口が減少するにもかかわらず、働き盛りの世代が労働と介護・子育ての両立を迫られる非常に厳しい社会になっていくだろう。

免許返納問題は、交通事故削減の解決策とクルマに代わる移動手段の確保の問題だけではない。「第2の介護問題」といっても過言ではなく、家族や経済の疲弊に関わる大きな問題でもある。介護問題と同様に、高齢者の足の確保を家族が背負うというこれまでの発想を変える必要があるだろう。

自由に移動できることの素晴らしさ

迫り来る老いを日々自覚しながら、懸命に前を向いて生きようとしている人もいる。若林敏明さんは長野県伊那市で、市民派の市会議員として15年にわたって地域のために力を尽くしてきた。2018年に議員活動をやめ、現在は市の中心市街地の一角でカフェを経営している。若林さんの最大の議員成果は、「足の確保は暮らしやすさの目安」を訴え、当時珍しかった循環バスを推進したことだ。循環バスは拡大され、その理念は現在の「乗合タクシー」につながっている。

若林さんは少し体が不自由で、歩くのは前かがみでゆっくりだ。振戦(しんせん)も少しずつ進んできている。パーキンソン病なのだ。「この病気は、10年かかる老化を数年で経験するので、多くの人は気づかない老いが見えてくる」と若林さんは言う。病気の治療のために行うトレーニングは老いていく体の筋肉を鍛えるためだが、新型コロナウイルス感染症の拡大でトレーニングできず、筋肉が失われていくことを実感したのである。そして筋肉を失ったことで自らの移動に危機が訪れていることを、冷静に深く分析している。市議として移動をテーマに活動してきただけに、その視点は温かくかつ鋭い。

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