「言葉のプロ」が実践、感情が伝わる日本語のコツ 日本語は感情を緻密に設計できる言語だ

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田丸:そうなんですか! 日本語のコピーを書くときも、英語で?

ナージャ:はい。英語って、余計なニュアンスが削ぎ落とされた言語なんですよ。

だからコピーのように最小限の強い核となる言葉を考えるのに向いている気がします。次に、どう表現するかという段階で、日本語に置き換えていくんです。たとえば日本語では誰が話すかによって、まったくニュアンスが変わりますよね。女子高生が喋るのか、おじいちゃんが喋るのか。同じ女子高生でも主語を「僕」にするのか、「あたし」にするのかでは雰囲気がまったく違います。日本語って、空気感や世界観、余白をつくりだせる言語なんです。

田丸:興味深いです。日本語は表現方法が多彩だと。

ナージャ:日本語は、感情をぜんぶ緻密に設計できます。その分、日本語でコピーを書くときにはあえて引き算を意識することもあるんです。すばらしい商品特性があったり、なによりもその事実がすごいよねというときには、コピーライターとして巧みな表現をしたくなってもぐっと堪えて、できるだけシンプルなコピーにしたりしますね。

わくわくしていないとおもしろいものなんて書けない

田丸:ご自身が気に入っている作品には、どんなものがありますか?

ナージャ:コピーではないんですけど、『6ヵ国転校生 ナージャの発見』という自著を出版しまして、このタイトルが気に入っています。最初は全然違うタイトルだったんですよ。でも、しっくりこなくて。自分の経験を表現するなら「転校生」という言葉は入れたいな。転校生に「6ヵ国」を組み合わせたら、今まで聞いたことのない新しさが生まれるかもしれない。不思議な言葉の組み合わせでうまくはまった例ですね。

田丸:すごく好きなタイトルです。僕も各地で開催しているショートショートの書き方講座で、言葉の組み合わせによって生まれる不思議な言葉からお話を考える方法をお伝えしていたり、自分自身も言葉を組み合わせてお話をつくることがあったりするんですけど、「6ヵ国転校生」ってありそうでなかった組み合わせですよね。創作意欲がわいてくる。ここから新しいフィクションが生まれそうな気がしますね。

ナージャ:フィクションが生まれそうな感覚って「企画性がある」「物語が眠っているような感じがする」ということなんだと思います。なんだかわくわくしたり、想像が広がったりしそうな感覚。それはいいコピーの条件と共通しているかもしれませんね。

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