「Z世代は覇気がない」と嘆く中高年が知るべき経緯 哲学と歴史からみれば彼らは「進化した人類」?
世界で最も知られた哲学者の一人が、ニーチェだ。ニーチェは著書『ツァラトゥストラはこう言った』(氷上英廣訳、岩波文庫)で、主人公ツァラトゥストラに「おしまいの人間たちは、最低の軽蔑すべき者だ」と語らせている。この「おしまいの人間たち」は、一般に「末人(まつじん)」とも呼ばれている。では末人とは何か。
野生動物はエサを真剣に探さないと生きられない。しかし家畜はエサを与えられるので本気になる必要はない。一方で、家畜には自由はない。人間に搾取され続けるだけだ。
人間も同じだ。現代社会では、何も挑戦せずにマッタリやっていても、まず死ぬことはない。人間の社会システムは、本気で生きない人を大量に生み出した。
ニーチェは「本気で生きない人間は、本質的に家畜と同じだ」と言った。そして家畜のように本気で生きない人たちを「末人」と呼び、本書で「末人は蚤のように根絶しがたい」と嘆いたのである。
そしてニーチェは「超人を目指せ」と言った。超人は高揚感や創造性にあふれ、新しいモノを創造し続ける。心理学者チクセントミハイが著書『フロー体験入門』(世界思想社)で提唱したように、忘我の境地で夢中になって創造的活動を行う人のイメージに近い。
こうしてニーチェは、主人公ツァラトゥストラがニーチェ思想を高らかに説く物語『ツァラトゥストラはこう言った』を書き上げた。本書でツァラトゥストラが語るメッセージは、要は「自分らしく、本気で生きようぜ」なのである。
このニーチェ的な視点で見ると、欲望や闘志がなく、皆で仲良く空気を読み合い争わないZ世代は、まさに「末人」に見えてしまうかもしれない。しかし、本当にそうだろうか?
歴史の始点には、貴族道徳を持つ「最初の人間」がいた
まったく別の視点が、アメリカの政治経済学者フランシス・フクヤマが1992年に刊行した『歴史の終わり』(渡部昇一訳、三笠書房)を読むと見えてくる。ちなみに本書のきっかけは、1989年のベルリンの壁崩壊だ。
第二次世界大戦で負けたドイツは東西ドイツに分割され、首都ベルリンの東西をコンクリートで固めた「ベルリンの壁」で遮断された。そして東欧諸国の民主化革命により、東ベルリン市民がベルリンの壁を破壊し、東西冷戦が終焉した。
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