代わりに、過去20~30年のあいだ、米英の経済は金融部門の過度な発展に支えられてきた。2008年の世界的な金融危機で経済が崩壊したあとの、弱々しい経済回復の土台になったのも(以来、経済学者のあいだでは「長期停滞論」も語られている)、やはり別の金融(と不動産)のバブルであり、それを可能にしたのは歴史的な低金利と、中央銀行の主導によるいわゆる「量的緩和策」だった。
2020年から22年にかけての新型コロナウイルスのパンデミックでは、米英の金融市場が実体経済と無関係であることが明らかになった。パンデミックの最中、両国の株式市場は史上最高値を記録した。実体経済はどん底の状態で、一般の人々が失業や収入の減少に苦しんでいたときにだ。米国流の表現を使うなら、ウォールストリート(金融界)とメインストリート(実体経済)とは、もはや互いに交わらないまったく別々のものになっているということだ。
メイド・イン・スイスの力
今までに買ったことのある「メイド・イン・スイス」の製品がたとえチョコレートだけだったとしても(スイスに行ったことがなければ、たいていそうだろう)、そのことに惑わされてはいけない。
スイスの成功の秘密は、世界最強の製造業部門にある。多くの人が思っているように銀行や富裕層向けの観光にあるわけではない。
そもそも、スイスのチョコレートが世界的な名声を博しているのも、製造業部門の創意工夫があったからだ(粉ミルクの発明、ミルクチョコレートの開発、コンチング製法の考案)。サービス産業の競争力のおかげではない。
例えば、銀行が板チョコの購入者のために便利な支払い方法を編み出すとか、広告代理店が洗練されたチョコレートのマーケティングキャンペーンを展開するとか、そういう能力のおかげではない。
脱工業化論では自説に都合のいいようにスイスがロールモデルとして使われているが、そのような議論は、よくても世の中に誤解を広めるだけだし、悪くければ、実体経済を損ねるだろう。わたしたちは今、そういう議論を信じることで、みずからを危険にさらしている。
(翻訳:黒輪篤嗣)
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