興味深いことに、世界第2位の工業国はどこかというと、脱工業化の成功例としてスイスとともに語られることの多いシンガポールなのだ。スイスやシンガポールを脱工業化やサービス経済化の手本に使うのは、ビーチでのバカンスを宣伝するのにノルウェーやフィンランドを使うようなものではないだろうか。
生産性の変化が原動力に
脱工業化論の支持者たちは、最近の経済に起こっている変化の本質を、根本的に見誤っている。脱工業化の主な原動力になっているのは、生産性の変化であって、需要の変化ではないのだ。
このことは雇用面に着目すると、わかりやすい。製造工程がどんどん機械化されているので、同じ製造業生産高を達成するのに必要な労働力は減っている。機械や産業用ロボットの助けを借りれば、今の労働者は親の世代に比べ、何倍も多くのものを生産できる。
半世紀前、富裕国では製造業に携わる人が労働力人口の約40%を占めていた。しかし現在では、労働力人口の10~20%で、同じか、ときにそれ以上の製造業生産高を実現している。
生産高の動向はそれよりいくらか複雑だ。確かに、富裕国の経済では製造業の重要性が低下し、サービス業の重要性が高まっている。しかしそういうことが生じているのは、脱工業化論者たちがわたしたちに信じ込ませようとしているのとは違って、絶対値でサービスの需要が工業製品の需要以上に伸びているからではない。
サービスの価格が相対的に工業製品より高くなっているのがその理由だ。なぜ高くなっているかといえば、製造業の生産性の上昇率がサービスの生産性の上昇率を上回っているからだ。
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