「バイトアプリで出禁」諦めない49歳男性の戦い 飲食店では契約外の「ツタの掃除」を命じられた

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サトルさんが利用している複数のアプリ。単発バイトアプリには数多くの種類がある(筆者撮影)

バイトアプリを使った日雇い労働は、「有料職業紹介事業者」であるアプリ運営会社と「求職者」である労働者、「求人者」である企業の3者が関係している。間接雇用と直接雇用の違いはあれど、こうした三角形の構図は「派遣元」と「派遣先」、「派遣労働者」で構成される派遣労働と酷似している。しかし、「日雇い派遣」の原則禁止という規制はバイトアプリによる日雇い労働には適用されない。

サトルさんは「実際には僕たちのことを派遣と勘違いしている企業も多いです。アプリを運営する会社もバイトからの苦情にはほとんど対応してくれない。求人者としての自覚も、有料職業紹介事業者としての自覚もありません」と憤る。

採用されたのは悪質企業ばかり

地方都市で生まれ育ったサトルさんの実家は自営業。裕福とまではいえないものの、高校卒業後は私立大学に進んだ。しかし、世の中は就職氷河期真っただ中。働いてきた会社の多くは絵に描いたような悪質企業だった。

新卒でかろうじて採用されたのは産業廃棄物処理を担う会社。作業中に誤って手のひらに注射針を刺してしまったときは、上司から「病院では健康保険を使え」とあからさまな“労災隠し”を命じられた。雑談中にサトルさんだけが笑わなかったという理由で、先輩から拳や張り手で20回以上殴れられたこともある。このときは「訴える」というサトルさんに対し、会社側は「そんなことをしたら懲戒免職にする」と脅してきたという。

また、ある精密機器販売会社の正社員として働いた際は、1年以上が過ぎたところで実は自分が派遣労働者であることがわかるという経験もした。残業代が支払われないことや社会保険が未加入であることを不審に思ったサトルさんが何度も会社に問い合わせた結果、この会社が自社で面接した人たちを無断で別の派遣会社に採用させ、派遣労働者として働かせていることが判明したのだという。

サトルさんが型破りなのは、多くのトラブルで泣き寝入りをしなかったことだ。注射針を刺した事故は労災として申請をしたし、先輩による暴行事件は裁判を経て勝利和解を得た。精密機器販売会社による違法行為をめぐっては、ユニオンに加入して闘う一方で地元県警に告訴。同社は後に職業安定法違反で書類送検されることになる。

サトルさんはこうして声を上げるたびに労働関連法の書籍を読み込んだり、労基署や労働局に何度も足を運んだりした。精密機器販売会社による職安法違反は当時、複数のメディアで報道もされ、記事によると200人近い労働者が同様の手口で働かされていたという。

その後、サトルさんは別の会社で非正規雇用労働者として働いたが、30代なかばころに体調不良が続いたため、医療機関を受診したところ指定難病であるベーチェット病と診断された。数年前に寛解状態となったものの、月10万円の障害年金だけでは暮らしていけない。このため複数のバイトアプリを使ってフードデリバリーの仕事を始めたのだという。

体調との兼ね合いもあるので、日雇いバイトの収入は多くても月十数万円で、現在入居している障害者向けグループホームの家賃は4万円。生活に余裕はなく、アプリ運営会社から出禁を食らうことは、サトルさんにとって死活問題である。

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