「バイトアプリで出禁」諦めない49歳男性の戦い 飲食店では契約外の「ツタの掃除」を命じられた

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話は少しずれるが、私は本連載で「『タイミーさん』51歳男性が日雇いを続ける理由」という記事を執筆、男性がサトルさんと同じく職場ではバイトアプリ名で呼ばれていることなどをリポートした。この記事に対してネット上では、「バイトも社員のことを『社員さん』と呼んでいる」「日雇いの名前を覚えられないのは当たり前」といった趣旨のコメントが寄せられた。

「バイト」と「社員」の力関係が対等でない以上、バイトが「社員さん」と呼ぶことと、社員がバイトをアプリ名で呼ぶことを同列に語ることには無理があるのではないか。一方で日雇いバイトの名前などいちいち覚えられないという主張には一理あるようにも思う。それでも私は、男性が名前を呼ばれないという現実に強い抵抗感を覚えた。

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「職場ではタイミーさんと呼ばれている」という男性の話を聞いて、私が真っ先に思い出したのは、スタジオジブリによるアニメ映画「千と千尋の神隠し」だった。作品の中で、異世界に迷い込んだ少女・千尋は名前の一部を奪われ、湯屋で働くことを強いられる。名前を奪われること、名前を与えられないことは、人格や人間性の否定だと私は受け止めた。このエピソードについては、宮崎駿監督もパンフレットの中で「名前を奪うという行為は、呼び名を変えるということではなく、相手を完全に支配しようとする方法である」と述べている。

アプリとファミレス運営会社からの回答は?

サトルさんに対し、なぜ寒空の下、薄着で配達に行かせて平気なのか。なぜ安易に出禁にするのか。なぜ契約以外の仕事を押し付けるのか。なぜ見下したような態度をとるのか。それらはすべてサトルさんが名前で呼ばれないことに端を発しているのではないか。

たかが名前、されど名前なのだ。日雇いバイトの名前を覚えるのはたしかに難しい。一方で非正規雇用労働者がここまで増える前は、名前も覚えられないような働かせ方自体、今よりもずっと少なかったのは事実だ。

話をサトルさんのことに戻そう。

サトルさんは「使えない」と言われたファミレスの系列店舗を出禁になった後、その理由についてアプリ運営会社とファミレスを運営する企業に、それぞれ問い合わせをした。その結果、アプリ側からは「ユーザー様(サトルさんのこと)のアプリ利用に制限はかけていない」、企業側からは「アプリ側のシステム上の問題ではないか」という旨の回答があった。要は出禁などにはしていないということらしい。

納得できなかったサトルさんは最近になり、所管の労働局に訴えた。サトルさんとしては通報に当たる申告を行いたかったが、担当者からは「(アプリ運営会社や企業の行為が)法令に違反しているかどうかわからない。違反であることが確定しないと申告は受けられない」という意味不明の説明をされた。典型的な門前払いである。

ただこれまでの経験から、労働者の権利がやすやすとは守られないことを身をもって知っているサトルさんは存外落ち込んでいない。関連法の知識を身に付け、引き続き労働局に足を運ぶつもりだという。サトルさんの闘いは続く。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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