日本は「独り勝ち」のチャンスを台なしにしている 資本主義の本質とは社会を破壊することにある

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競馬である。

エリザベス女王杯。3歳と古馬の牝馬とが対決する、頂上決戦である(12日、京都競馬場で行われる第11レース、距離2200メートル、G1)。

古馬という表現は考えてみると差別的でひどい話だが、競走馬の生産の観点からはやむをえない。優秀な遺伝子を選び出し、後世に残すものを決め、その牡馬と牝馬を交配するのだから、どの馬が優れた遺伝子を持っているかがわかってしまえば、それ以上レースをする必要はないのである。

とりわけ牝馬は、1年に1頭しか遺伝子を伝えられないから、ともかく早く母になることが重要である。また健康面、活力を伝え、丈夫な仔を産むためにも、若ければ若いほどいいと考えられてきたのである。

だから、かつては、3歳の牡馬には3冠レースがあっても、3歳の牝馬にはなかった。桜花賞、オークスでおしまいだったのである。だから、秋に行われる3歳牡馬3冠目の菊花賞はクラシックだが、今ある3歳牝馬3冠目の秋華賞も、このエリザベス女王杯もクラシックとは呼ばれないのである。

エリザベス女王杯の本命は「勝つしかないあの馬」

したがって、古馬牝馬の重賞レースが少ないから、新しく作る(新潟牝馬ステークスが今年から施行されている)のは、伝統的な考え方からすれば、ナンセンスなのである。

もっとナンセンスなのは、大きなレースに高額の賞金をつけることだ。近年、その傾向は加速しているが、そうなると、能力が判明してからも賞金稼ぎでなかなか引退しない牡馬が増えてくる。
昨今は牝馬ですらそうだ。

ディープインパクトを父に持つ、欧州で生産されたオーギュストロダンは英国ダービー、アイリッシュダービー、そしてアイリッシュチャンピオンステークスを勝ち、欧州王者となった。さらに、この11月にもアメリカでBCターフを勝ち、世界を制覇した。

にもかかわらず、当初の引退、種牡馬の予定を翻し、どうも来年もレースを走るようだ(現役続行、という言葉はおかしい。繁殖こそがメインの仕事だから、種牡馬を引退するときに現役引退というべきである)。

ということで、5歳牝馬のジェラルディーナ(4枠7番)は昨年からの連覇がかかるらしいが、勝ったレースをもう一度勝っても能力検定上は何の意味もないから、さっさと引退してほしい。だが、もう11月で繁殖は来年からだから、勝つしかない。3歳のブレイディヴェーグ(1枠1番)に負けるわけにはいかない。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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