日本は「独り勝ち」のチャンスを台なしにしている 資本主義の本質とは社会を破壊することにある

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なぜそう言えるのか。それが資本主義の定義だからである。

イノベーションとは経済を破壊することである。資本主義を動かすのは、イノベーションであり、それを経済に実現させる資本である。

経済は、社会の基盤あるいは経済社会として一体化している。資本がイノベーションを実現させ、イノベーションが経済を破壊する。

それが独占体制を壊し、経済発展をもたらす場合、つまり創造的破壊が実現する場合もあれば、既存の独占主体と新規参入の独占をもくろむ企業家との覇権争いにより、経済が破壊されるだけ、創造的でないただの破壊に終わる場合もある。

前者の場合、かつそれが人々の生活を大きく改善するような技術革新を伴う場合には、経済は大きく発展し、社会も豊かになりうる。しかし、後者のように、独占的利益の奪い合いに終始する場合には、経済秩序は破壊されていくだけとなる。その結果、徐々に社会秩序も破壊されていくことになる。

資本主義は「崩壊の後半、末期」へ推移

したがって、資本が経済社会を動かす資本主義という時代は、社会秩序を壊すことにより発展する前半と(中世の呪縛から経済主体を開放した)、自由になりすぎた経済主体同士が資本を武器に破壊しあい、経済も社会も秩序を失い、安定均衡から次の均衡には移れずに、ただ崩壊していく後半、末期と推移することとなる。

資本主義は1492年に始まった。いわゆるクリストファー・コロンブスによる「新大陸」の発見、大航海時代の始まりが資本主義の始まりなのである。

資本主義とは流動化である。

中世の固定された共同体が、農村と都市に分かれ、農村から都市へ人々が流動化し、労働者として流れ込む。欧州から世界へ、人と武器と菌が移動し、略奪された貴金属と商品作物が欧州に流れ込み、奴隷が大陸間を移動する。知識が移動し、中世時代に蓄積された富、世界で略奪された富が欧州から資本として流動化し、世界を駆け巡る。

この資本により、人々は労働力としてさらに流動化、動員され、戦争にも動員された。資本が移動し、戦争が移動し、覇権が移動した。

経済は変化し、社会が経済の変化に対応するように変化した。そして、その変化のスピードは速まり続けた。なぜなら、軍事的な戦争にせよ、経済的覇権争いにせよ、これらは流動化による動員の戦い、どれだけすばやく環境変化に対応して動員できるか、自らも変化できるかが、国家や経済圏同士の戦いの勝利の決め手となったからである。

もちろん、環境変化とは、人間たちが移動を始めたこと、その移動を加速したことによるものであり、自分が動き、自分で環境を変化させ、それへの対応としての変化を強いられ、この変化は加速し続けたのである。

すなわち、資本主義の時代とは、変化の時代、変化により経済と社会を破壊しながら変化させ続ける時代なのである。この変化をとめれば、ただ破壊された前世代の経済と社会が遺物として残るだけだ。だから、変化し続けるしかない。変化の速さを競う戦いである。

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