だから、経済発展とは拡大ではなく、成長ですらないとシュンペーターはみなしている。現在われわれが経済成長と呼んでいるものは、ただの量的膨張か、あるいは長期の持続的成長と言っても、いわば樹木が自然に伸びていくようなものであり、経済的発展とは到底呼べない。経済発展とは、現在の経済市場と将来のそれに断絶があり、新しいものが前のものに取って代わるものなのである。
この考えに基づけば、現代のイノベーションが経済成長を生み出す、というのは間違っている。持続的な成長というのは、イノベーションではなく、ただの膨張なのである。
そして、シュンペーターは、この経済発展をもたらすプロセスを景気循環と呼んでいるのである。この循環によって、経済は好況、不況を経て、これまでの生産者、生産メカニズムが消滅し、新しい生産者と生産システムが経済を形作るのである。ここでの不況とは景気後退という短い一時的なものではなく、ひとつの経済恐慌に近い次元のものを指す。
シュンペーター理論とは「資本論」「資本主義システム論」
当初は、銀行が新しい資本を供給するから、経済全体の資本が増加する。労働者もそのほかの経済的資源も、既存の生産者と新規の企業家との間で取り合いになる。しかも、新規の企業家は新参者として、既存の生産者が先有している労働者と資源を奪い取るから、これまでよりも高い賃金、高い価格を支払わないといけない。これがブーム、好況をもたらす。
その結果、物価も上がる。しかし、次には、生産が二重に行われるから、価格は下落し、不況になる。既存の生産者と新規生産者がともに別々に生産し、新規企業家の生産物が市場に出てくれば、商品価格は下落するからである。
そして、新しい企業家の方が優れているわけだから(もし優れていなければ、イノベーションは最終的には実現せず、もとの経済に戻る)、下落した価格でも採算が合う(あるいはより魅力的な製品で価格下落を伴わずに済む)が、既存の生産者は生き残れない。
よって、淘汰されていく。新しい生産者だけが残り、彼は独占的な地位を占める。この利潤により、銀行へ資本は返済され、経済は縮小する。さらに、新しい独占者(かつての企業家)による生産は続くが、徐々に幅広く、新しい生産システムの効率性の恩恵が波及し、不況は終わり、経済は景気中立的な新しい均衡点に戻っていく。
これがシュンペーターの経済発展の理論、景気循環論のメカニズムである。そして、景気循環論というと、現代のわれわれは短期の景気変動をイメージしてしまうが、ここで語られるのは、もっと期間の長いものであり、シュンペーターの意図は「資本主義論」なのである。
シュンペーターの理論のエッセンスを、われわれ現代人は、都合よく、個別のイノベーション論に矮小化しているが、シュンペーター理論とは、「資本論」であり、「資本主義システム論」なのである。
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