ロボット技術活用、寝たきりの人に「キャリア」を 神奈川の中小企業が「遠隔就労システム」を開発
和田さんが遠隔就労にこだわるのは、約7年前に意思伝達装置を販売する部署で出会った1人のALS患者の存在がある。同年代だったという男性で、機器の導入支援やメンテナンスで家へ通っているうちに、いつしか打ち解けて友人のような間柄になった。
2年ほどたったある日、いつものように男性宅を訪れると、男性の居室とは別の部屋に通された。そこで当時70歳ぐらいだった彼の両親に「頼みがある」と告げられた。「息子が呼吸器をつけないと言っている。何とか説得してほしい」。症状が進行し、男性はいよいよ生死の選択を迫られていたのだ。両親は本人に聞こえないよう声をひそめていたが、そのまなざしは切実そのものだった。
忘れられない”友人”の死
「長生きしてほしいという気持ちは同じ。でも、そこまで踏みこんでいいのだろうか」。和田さんは葛藤を抱えながら、男性のもとへ向かった。悩んだあげく、口をついたのは「ご両親が生きてほしいって言っていたよ」。自分の言葉ではなかった。男性は意思伝達装置の操作を始めた。ひらがな50音の文字盤が順番に点滅し、入力したい字が来たタイミングでスイッチを押す。この繰り返しでゆっくりと言葉を紡ぎ、こう返答した。
「どうせなにもできない いきじごくだ」
無機質な機械による音声の読み上げが室内に響いた。和田さんは何も言い返すことはできず、ただ立ち尽くすだけだった。男性はさらに「おやがいなくなったら だれがわたしのめんどうを みてくれるのか」と続けた。その数カ月後、男性の容態は急変し、そのまま帰らぬ人となった。
和田さんは「彼の言葉を否定できなかった。何もしてあげられなかった」と振り返る。やりきれなさは、別の部署へ異動した後も残った。もし人生の希望になるような選択肢を提示できれば、彼に「生きろ」と言えたのでないか――。そんな後悔が今の原動力となっている。
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