ロボット技術活用、寝たきりの人に「キャリア」を 神奈川の中小企業が「遠隔就労システム」を開発

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ゴクーは工場などでの生産効率化を目的に作られ、遠隔で動かせる。ベースユニットに繋ぐワイヤーやチェーンの長さを調節することで、さまざまな広さの空間に対応し、使わないときは天井付近で待機するので場所も取らない。ロボットハンドだけでなく、カメラやブラシなどの取り付けも可能で、監視や清掃などの用途にも使える。約3年前に完成し、大手ゼネコンが高層ビルの窓ふき作業に採用したなどの実績がある。

このゴクーを使って、寝たきりの人でも働ける遠隔就労システムを開発しようというのが今回のプロジェクトだ。遠隔操作では基本的にジョイスティックを使うが、身体的に難しい人向けにボタンでの入力にも対応。患者が動かせる体の部位を特定し、技術者がそこにフィットするスイッチを選ぶ。目の動きを検知し、視線で入力するデバイスも取り付けられる。

こうした流れは意思伝達装置の適合と似ており、ダブル技研がこれまで蓄積してきたノウハウを活かすことができる。年内にもALS患者ら7人を対象に、養蜂場での就労実験を始める計画だ。

働ければ「大きな生きがいになる」

このプロジェクトが始まったのは2022年。ゴクーの汎用性に目をつけた同社の和田始竜専務(41)が「重度障害者が自宅や施設にいながら働ける環境を整えたい」と、厚生労働省の「障害者自立支援機器等開発促進事業」に応募。見事に採択され、最大2000万円の開発補助を最長3年受けられる権利を得た。

ゴクーに取り付けるロボットハンドを持つ和田始竜ダブル技研専務。後ろが遠隔就労システムの実験スペース(記者撮影)

ALSの患者団体「日本ALS協会」もアドバイザーとして参加する。この難病にかかると全身の筋肉が徐々にやせて動かせなくなり、やがて自力で息すらできなくなる。患者は全国に約1万人いて、完治させる薬や治療法は見つかっていない。手術して呼吸器を装着すれば生き続けられるが、約7割は拒むとされる。つまり、多くの当事者が事実上の死を選んでいるのだ。自身も患者であり、同協会の会長を務める恩田聖敬さんは、書面インタビューでこう語った。

「多くの人は働くことに稼ぐ以外の要素があると思います。ALSは人生を一変させる病気です。その中で変わらず働けたら1つの大きな生きがいになると思います」

「ALS患者が働くには『いつでもどこでも働ける』のが重要です。日中は訪問看護やリハビリなどの身体のケアに時間を割かれるからです。自分のペースで働くことをぜひとも実現してほしいです。ALSに限らず就労意欲はあるけどさまざまな事情で働けない人の受け皿になることを期待します」

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