日銀が動いても「1ドル150円の終わり」が見えない 3年連続「物価2%超え」でも「確度足りない」

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今後も1ドル=150円の円安水準が続きそうだ。10月の会合中には事前にYCC再修正に関する報道が出た。その際に海外メディアや金融機関を中心に一部でYCCの事実上撤廃や引き締め姿勢への本格転換への見方がなされ、為替は一時1ドル=148円台と円高方向に振れた。

しかし、日銀が再修正を正式に発表してからは、YCCの撤廃や緩和姿勢変更ではないとの理解が広がり、円安方向に再転換。31日夜には財務省が10月に為替介入を行っていなかったことも明らかとなり、1ドル150円台後半の円安水準に戻った。

円安による物価上昇の影響を日本は受け続ける

11月2日にはアメリカでFOMC(連邦公開市場委員会)が控えている。今回FRBは金利引き上げなど政策に変更を加えないとみられるが、足元でアメリカ経済はなお堅調な指標が出ており、利下げの見通しがさらに先になるとの見方も市場にはある。YCCの再修正だけではドル高圧力に抗しきれず、円安方向への値動きが続くだろう。

植田総裁は物価見通しの上振れの「第1の力」は輸入物価上昇にあり、「第2の力」は国内の賃金と物価の上昇による好循環だと説明し、「第2の力」を伸ばしたいとする。ただ、「第1の力が長引いて」(植田氏)おり、金融政策の変更も先であることによる円安基調から「第1の力」による物価上昇の影響を日本社会は受け続けそうだ。

すでに日銀が掲げる2%の物価安定目標を上回るインフレ水準が続き、日銀の最新の見通しどおりになればその水準は約3年続くことになる。植田総裁は「大幅な物価の上昇が家計などの大きな負担になっていることはよく認識している」と認める。それでも植田氏は賃金上昇を伴う2%達成はまだ先であり、「第2の力」が育っていないとして、緩和を粘り強く続けるとする。

日銀と植田総裁は政策の判断や執行における基準を不明瞭にすることで裁量を増やしている。それによって金融政策の正常化に向けて着実に布石を打ち、取れる選択肢を増やしている面は評価もされよう。

ただ円安や金利上昇に直面している金融経済環境の中で、政策の本格転換に打って出るタイミングの前倒しを迫られているのは間違いなく、「第2の力」が育ちきったと判断せざるをえなくなる時は意外と早いかもしれない。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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