歴史的魅力ある街が観光振興で失敗する共通原因 失敗した事例はどれも似たようなものが多い

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さらに、この状況を打開するためにイベントを開催したとあるが、内容は芸能人を呼ぶといった集客を目的にしたもので終わっている。地域の観光経験となっているコア・リソースを強化するようなイベントでなければ、それは単なる一過性のイベントで終わってしまう。

これは典型的な一過性イベントで人を集める手法であり、この方法はある種のドーピングのようなもので、やり続けなければ効果が切れてしまう。そのため、次から次へとイベントをやり続ける必要が出るのだが、多くの地域では途中でイベント財源となっていた補助金が打ち切られてしまったり、過度のボランティア運営によるイベント疲れが出てきたりして、終わってしまう事例は多い。

コア・リソースの価値を見失わないように

Bさんの失敗事例は、観光客を呼び込むためのコア・リソースと、呼び込んだ後にどうやって楽しんでもらうのかを組み合わせる設計が甘かったことから起きたものだ。これらは目的が違うので、それぞれ検討していく必要がある。

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こういう時に気を付けなくてはいけないのは、「結局歴史的景観では儲からない」という極端な意見が出てきて、それに対して確かにその通りだという声が上がっていくことだ。すると、歴史的景観とはそぐわないが、消費活動につながりそうなわかりやすいものを整備しようとしてしまう。

この方法は短期的にはお金が入ってくるかもしれないが、コア・リソースの魅力を弱めてしまうため、長期的にはマイナスとなる。似たような施設が隣接地域に建設されたら、それで終わりだ。

そもそも地域に観光客を呼び込むことが何よりも難しいので、このケースでは歴史はしっかりと魅力的なものとして役割を果たしている。目の前の「数字」に追われて自分たちの魅力の源泉を自ら破壊することにならないよう、注意する必要があるだろう。

久保 健治 ヒストリーデザイン代表

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くぼ けんじ / Kenji Kubo

1981年、東京都中野区生まれ。武蔵野大学神田外語大学兼任講師。NPO法人全日本ディベート連盟専務理事。データストラテジー株式会社研究員。創価大学大学院文学研究科人文学専攻博士後期課程単位取得満期退学。修士(歴史学)。近代日本史料研究会、藤沢市史の史料編纂に従事した後、東京工業大学特任講師、ソーシャルメディアマーケティング会社を経て株式会社ヒストリーデザインを設立。専門は地域マーケティング論、経営戦略論、地域資源論。経営学者兼コンサルタントとして、観光分野を中心に歴史を活用した経営戦略の理論研究とビジネス実践を行っている。

 

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