不登校経験者の運転士たちが立ち上げた学び場 「僕たち自身、好きな鉄道に救われて元気になれた」
好きなことに夢中になることには、2つのメリットがあると思っています。1つは、それ以外のことをいったん忘れられること。僕の場合は、鉄道のことを考えているあいだは学校のことを忘れて元気になれたのがよかったですね。
もう1つは、好きなことを楽しむためには越えるべきハードルがたくさんあって、それを一つひとつ越えているうちにすこしずつ、できることが増えていくこと。僕は、早起きが苦手だったのですが、「あの電車に乗りに行こう」という目的があれば、早く起きられたんですよ。好きなことだからこそ、エネルギーが湧いてくるんです。それは、大人になった今も同じですね。
両親の支えや、鉄道に夢中になったことで元気を取り戻した僕は、中学卒業のタイミングで退学して、不登校支援でも有名な東京都立新宿山吹高校に入り直しました。ここが、とても肌に合ったんです。不登校経験のある生徒が集まっていたので、中学校に通っていなかったことをわざわざ言う必要がないし、おたがいに詮索することもありません。「よくわかんないけど、お前もつらかったんだな。まあ、これからは楽しくやろうよ」みたいな感じですね(笑)。
スポーツや芸能活動でプロを目指している子たちが集まっていたことも、いい刺激になりました。「やりたいことをやる」というのがあたりまえの環境にいたから、そういう考え方が自然と染みついたような気がします。
これまで無関心だった人に届け
――鉄道会社という大企業が不登校問題を扱うのは、とても意義深いことだと思います。別所さんは、どのように感じていますか?
不登校当事者の親御さんのお話しを聞いていると、お母さんよりもお父さんのほうから「わが子の不登校を認められない」という声を聞くことが多いような気がします。そういうお父さんの心の奥底には、「将来、仕事に就けないのでは?」という不安が隠れていることがあるようです。
そんな不安に対して「何とかなりまっせ!」と言えるのが、僕たちのような大きな企業の存在だと思うんですよ。世のなかのほとんどの人が知っている小田急電鉄が「大丈夫だ」と言っている、と。それがすこしでも不安の払拭につながって、不登校に対する世のなかの空気が変わるといいな、と思っています。
僕たちは、今年の5月から6月にかけてクラウドファンディングに挑戦しました。もちろん大きな目的は、スクールをより充実したものにするための資金集めだったのですが、同時に、クラウドファンディングの告知を通して不登校のことをもっとたくさんの人に知ってほしい、不登校にまつわるネガティブな空気を吹き飛ばしたいという思いがありました。