パレスチナとイスラエルの和平で最大の壁は何か 命がけで「2国家共存」を進める指導者は出現するか

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貴重な情報も軍諜報部の分析段階で重要視されず、最終的に戦争の準備が整わないまま奇襲攻撃を受け、緒戦で相当な被害を受けました。これは後に「コンセプツィア」と呼ばれるようになりました。

固定観念から来る油断といったニュアンスです。そのあたりの状況が今回と似ていると指摘されています。コンセプツィアに支配され、ハマスは「しばらく手出しをしてこないだろう」と高をくくっていたのかも知れません。実際ここ数年、ハマスからの大規模な攻撃はありませんでした。

――第4次中東戦争と比較すると、イスラエルを取り巻く今の状況はどうでしょうか。

アラブ諸国との関係は大きく変わりました。50年前の当時、アラブのほとんどの国はイスラエルを敵視していました。もちろん国交を結んだ国など1つもありません。そしてヨム・キプール戦争によってアラブ連盟はアラブボイコット(対イスラエル経済制裁)を発動し、世界にオイルショックを引き起こしました。

けれども今は、イスラエルと国交を結ぶアラブ諸国が数多く存在します。

イスラエルは1979年にエジプトと、1994年にはヨルダンと和平条約を締結しました。そして2020年、イスラエルはUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンと「アブラハム合意」を結び、スーダン、モロッコといった国々も後に続きました。

さらに今回の攻撃直前には、イスラム世界の盟主サウジアラビアとの国交正常化交渉が水面下で進められていました。イスラエルがアラブ諸国と国交を結ぶなど、以前には考えられなかったことが、この50年で実現してきました。この点が、ヨム・キプール戦争の時と大きく異なっています。

50年前の戦争時よりも大きな衝撃

イスラエルは外交力も経済力も、そして軍事力も飛躍的に成長しています。アメリカとの関係もこの50年で強固なものになりました。こうした観点から、今回はヨム・キプール戦争時のように国の存亡に関わるような危機的状況に陥ることはないと思います。

けれども、ハマスによる奇襲攻撃がイスラエル人に与えた衝撃は、ヨム・キプール戦争以上かもしれません。相手が国家ではなく武装テロ集団だったのも大きいですし、ハマスがここまで大規模なテロを仕掛け、惨殺し、拉致を実行し、ある程度の成果を得ることなど想像できなかったでしょう。まさに悪夢のような惨事でした。

――ハマスを支援するイランが、今回の攻撃に関与したという指摘もあります。

イランは早い段階で「今回の攻撃には関与していない」と表明しています。自国に降りかかりそうな火の粉を早めに処理しておきたかったのでしょう。その発言どおり、攻撃に関する直接的な指示はなかったかもしれません。けれども、長年にわたってハマスに資金援助をしてきたことは明らかなので、責任を免れることはないと思います。

――攻撃規模からすれば、「第5次中東戦争にまで発展するのではないか」と危惧されています。

こればかりは予測不可能です。ヨム・キプール戦争時の首相ゴルダ・メイールが、戦争勃発直前に「(エジプトは)国内の情勢次第で、非論理的論理で動く可能性もある」と発言した通りになったように、アラブ世界では時に西側の考える論理とは違う論理が働くことを頭に入れておく必要があります。

今、レバノンのヒズボラがハマスと共同戦線を張ろうとする動きがあります。ヒズボラとハマスに共通するのは、いずれもバックにイランがいることです。イランがしらを切りつつ、ハマスとヒズボラに代理戦争をやらせているなら、戦火が拡大していく危険性はあると思います。

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