「忍者ヒグマ」駆除でも終わらない北海道民の恐怖 札幌の住宅街で人身事故、観光客も要注意

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しかし、状況は一変する。個体数が激減して絶滅寸前にまでいった地域が出てきたことに加え、世界的な自然保護意識の高まりもあり、当時の横路孝弘知事が保護政策に乗り出し、1990年3月に「春グマ駆除」は廃止となったのだ。

それ以降、個体数が増加に転じてきたのだが、一方で都市部や周辺では住宅開発が進み、ヒグマの生息域のすぐ近くに住宅街が形成されるようになったという歴史的な経緯がある。

エゾシカの増加がヒグマの頭数にも影響?

さらに、見逃せないのがエゾシカの激増である。2000年には約32万頭だった道内のエゾシカは2022年には72万頭へと2倍以上に増えている。このエゾシカ激増により、山間部においてヒグマの餌にもなる植物を食べてしまうことで、里に下りて農地に出没するヒグマが増えたという説があるほか、エゾシカがクマの餌となっているケースが報告されているという。

1995年に発表されたある論文(※1)によると、1990年代に行われた67例のヒグマの胃の内容物分析の結果、日高・夕張地域や道東・宗谷地域の6例からエゾシカの体毛や肉片などが出現した。またエゾシカの成獣を捕食するヒグマの目撃情報も記載されている。

こうしたことから前出の論文では、

近年のエゾシカの増加に伴ってシカを利用する頻度が増加していると思われ、ヒグマによるエゾシカの捕食が今後増加する可能性がある。

と指摘している。

さらに、アラスカキーナイ半島のアメリカクロクマの生態研究についても触れ、

「ヘラジカの新生子を高頻度で捕食する個体群(※アメリカクロクマ)では、そうでない個体群と比べて幼獣の成長が早く、生存率が高いことも知られている」(Schwartz & Franzmann、1991)

という興味深い論文内容を紹介している。

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