滝沢馬琴「歯失い両目も失明」でも書き続けた執念 28年の歳月をかけ「南総里見八犬伝」が完成した
歯がなくなってもニヤリ
老いは目と歯から始まる――。
馬琴は文政10(1827)年6月3日付の日記で、こんなことを書いた。時期的にはちょうど代表作『南総里見八犬伝』を執筆している最中のことだ。
「予、今六十一歳にして、歯牙皆脱了」(『馬琴日記』)
数え年で61歳なので、満年齢では60歳ということになる。もともと馬琴は甘い物が好きだったせいか、30歳から歯が抜け始めて、早々と入れ歯を使い始める。それが還暦を迎えると、とうとう最後の1本が抜けてしまったようだ。
この2日後には、総入れ歯を作るために、牛込神楽坂の入歯師のもとに足を運んで、上下ともに型をとっている。
それでも馬琴に悲壮感はない。先の日記のあとには、こう続けている。
「故(もと)に復(かえ)るの義か。自笑に堪(た)えたり」


















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