滝沢馬琴「歯失い両目も失明」でも書き続けた執念 28年の歳月をかけ「南総里見八犬伝」が完成した

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干支・十干の組み合わせが60年で一巡する。そのため、「元の暦に戻る」の意味で、60歳を「還暦」と呼ぶ。

よりによって、そんな「生まれ変わる」とされる還暦のタイミングで、まるで赤ちゃんのように、すべて歯を失ったことに、馬琴は愉快を感じずにはいられなかったらしい。一人自嘲気味に、くっくっと笑っていたのだろうか。何ともユーモラスである。

食事についても、馬琴は噛む必要のない、水あめや梅びたしを楽しんでいる。

68歳で右目を失明しても、書き続ける

ところが、馬琴は歯だけではなく、目まで蝕まれることになる。天保5(1834)年2月、68歳で右目を失明してしまう。それでも執念で左目だけで書き続けた。

無理がたたったのだろう。73歳で左目も失明。以後は、息子の妻みちに字を教えながら、口述筆記でなんとか物語を書き進めた。

両目を失明しても書き続けた滝沢馬琴(イラスト:『おしまい図鑑 すごい人は最期にどう生きたか?』より引用)

48歳から書き始めた『南総里見八犬伝』が完成したのは、両目が失明してから3年後、76歳のときのことだ。実に28年もの歳月をかけた超大作となった。

82歳で亡くなるときに、馬琴は名医の診察も拒否。こんな辞世の句を詠んであの世に旅立っている。

「世の中の 役を逃れて もとのまゝ かへすぞあめと つちの人形」

現代語訳すれば「人間の役目を離れて、元のままに、魂は天へ肉体は土に還ろう」。やるべきことはやった。そんな馬琴の清々しい思いが伝わってくる。

科学者のガリレオ・ガリレイが、馬琴の最期の句を知れば、きっと共感したことだろう。

「それでも地球は動く」

ガリレオといえば、当時は常識とされた「地球があらゆる天体の中心で不動である」という天動説に異議をとなえて、声高に「地動説」を訴えたというイメージが強いかもしれない。

だが、実際のガリレオは裁判で国側を説得することを早々に諦めて、なるべく早く裁判を終わらせようとしていた節がある。すでにガリレオは70歳近く、人生の残り時間が限られていた。

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