いかに生きるか社員に伝える 伊那食品工業会長・塚越寛氏④

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つかこし・ひろし 伊那食品工業会長。もともと農家の冬の副業で相場商品だった寒天に、社員の1割を研究開発に充て付加価値を付けてきた。著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの「年輪経営」』ほか。1937年生まれ。10代後半の3年間、結核の病に伏した。

海外社員旅行は1969年から1年おきに実施しています。今も会社が1人9万円出して、各自月2000円ずつ積み立てる。十数班に分かれて、9~11月までの間、どこかの班がどこかに行ってるわけ。ニュージーランドに行った連中なんて、全行程レンタカーとレンタバイクで550キロメートル移動したって。

各班1週間以内、どこへ行ってもいいけど、一つ条件として、基本は滞在型の旅にしろって言ってある。荷物は置いて、自分で計画して自分で行動しなさいと。いっぱい調べてそれが勉強になり、知識も視野も広がるじゃない。社員一人ひとりの成長の総和が会社の成長なわけよ。売上高が会社の成長じゃないんだよ。

留守中の仕事はみんなが補う。抜けるほうは「よろしく頼む」、送るほうは気持ちよく「行ってらっしゃい」って言うような関係が生まれるわけ。それが「伊那食ファミリー」の意識を高めてる。うちは誰もが忙しい場所へすぐ入る。研究員だって役員だって、レストランが忙しければ自然と手伝いに行くもん。

「百年カレンダー」と「教育勅語」

社員には別に、笑顔を作りなさいとか、こんな言葉をかけなさいとか何も指示してないけど、お客さんに喜んでもらおうと自然体で接してるね。掃除も毎朝全員でやる。空気が違うよ、うちの朝は。寒いのにみんな一生懸命。本当に頭が下がる。だから福利厚生こそ最重要。今も立派な社宅をもう一つ建ててるところ。

「百年カレンダー」というのを作ってるの。1枚の紙に並ぶ暦の中に必ず社員全員の命日がある。人生には限りがあって、生きてるうちにやれるだけのことやらなきゃ損だ、本当に幸せになりたいなら、人の役に立って喜んでもらえるようなことをしろと。そう社員に教育をします。

研修では「教育勅語」も使う。人間として当たり前のこと、日本人のバックボーンだよ。親孝行しろ、兄弟は仲よく、友達は信じ合えとか、人格を磨いて社会に貢献せよとか。戦後民主主義教育で否定する人もいるけど、いいこと書いてあるんだよ。

それから二宮尊徳の「遠くをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す」の言葉を社内に掲げてる。目先の損得を考えるなと言われても、簡単なことじゃない。だからひたすら言い続けて、社員に浸透していくことを願ってる。百年カレンダーを見ると、俺の命日なんか残念ながら、もう上から2段目のどこかにある。一日一日がもったいない。だから会社の永続を考えて、俺が会社を去る前に、できる範囲で世の中のためになればいいと思ってやってる。

週刊東洋経済編集部
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