カネは回してこそ社会のため 伊那食品工業会長・塚越寛氏②

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つかこし・ひろし 伊那食品工業会長。もともと農家の冬の副業で相場商品だった寒天に、社員の1割を研究開発に充て付加価値を付けてきた。著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの「年輪経営」』ほか。1937年生まれ。10代後半の3年間、結核の病に伏した。

創業半年後のこの会社に来て再建に取りかかり、以後、40年間連続増収増益で来ました。急成長は追わず、毎年少しずつ積み重ねる形でね。ところが2005年に寒天ブームが巻き起こった。その反動で09年12月期まで、今度は3期連続で減収減益を余儀なくされました。

ブームが来た時、増産することに対し実は私自身は反対だった。けれど社員が「ぜひやりましょう、自分たちにやらせてくれ」と言ってくる。経営者には雇用って義務があるわけだ。雇用したらその人を守らないかん義務があるわけよ。うちは一度も首切りしたことない。首切らないためには急成長したらいかんのよ。急成長すると必ず悪い事態に陥る。でも結局みんなの声に押され、初めて24時間スリーシフトをやったんだよ、俺の大嫌いな。そうしたら3カ月くらいしてみんなクタビレてきたのがわかった。それで、これじゃまずいと思って、「もういい」と、やめろと。もっともブームのほうも同じ頃に終息していったから、在庫の山や返品の山は抱えずに済んだ。

不景気の時ほど投資をする

でも減収減益が続いた間も、給料は減らさなかったし、ボーナスも減らさなかったよ。08年の創業50周年は盛大にお祝いしたし、ヨーロッパ旅行へ全員で行ったしね。ブーム後の混乱が修正されれば、いずれまた上向きに戻れるという自信があったから。そしてようやく今、会社は落ち着いてきたところ。ブームでハネ上がる前のなだらかな右肩上がりの延長線上に戻った。必ず戻れると信じてたから、全然慌てなかった。

無理はしないのがうちの信条。この20年、経費節減なんか言ったことないよ。もちろん無人の部屋に明かりは無駄だけど、人が働いてる所では大いに明るくしろ、暖房を大いに使えっていうの。1日でいちばん長い時間過ごす場所を快適にすることは必要経費だから。そんなとこまでケチって儲けるようじゃ、経営者の腕がよっぽど悪いんだって。

今年はうちは投資が目白押し。投資といっても生産性を上げる投資じゃなくて、社員が快適に働けるようにするための投資。不景気のときに投資したってしょうがないから投資しない、って世間は言うけど、違うんだよ。そういう時には福利厚生や景観、環境とか街づくりとかって、やることいっぱいある。内部留保はどこもあるんだよ。それをため込まず、どんどん投資しておカネを回す。カネは回さなきゃ意味がない。会社っていうのはそうすべきもんだ。今も昔もそうだけど、うちは不景気の時ほど投資をするのよ。

週刊東洋経済編集部
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