企業のあるべき「道」 伊那食品工業会長・塚越寛氏①

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つかこし・ひろし 伊那食品工業会長。もともと農家の冬の副業で相場商品だった寒天に、社員の1割を研究開発に充て付加価値を付けてきた。著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの「年輪経営」』ほか。1937年生まれ。10代後半の3年間、結核の病に伏した。

寒天メーカートップとはいえ、うちは年商170億円で利益が20億円の会社。規模としては大したことない会社なのに、世間から注目してもらえるのは、理念がずっと変わってないからじゃないかな。そこに大きな価値があるんだ。

ちなみに、伊那食品工業の社是は「いい会社をつくりましょう」。「良(よ)い」ではなくて、ひらがなの「いい」。みんなが日常会話の中で「いい会社だね」って言ってくださるような会社にしようってこと。「良い会社」というと、売上高だの利益だの株価だの、経営上の数字で優秀な会社というイメージでしょう。そうじゃなくて、うちが目指すのは「いい」。

この「いい会社をつくりましょう」を社是にして、もう30年経つ。会社はどうあるべきかをいつも言うわけよ。あるべき姿、「道」だね。会社の道とは何かといえば、一人でも多くの社員を幸せにすること。だから人件費はコストじゃないんだよ。より多くの報酬をあげて幸せにする、そのための手段なんだ。実際に給料もボーナスも毎年上げてますよ。一度も減ったことはない。もちろんリストラもずっとなし。

自分に課した心得10カ条

そして社会に迷惑をかけないようにすること。この、絶対人に迷惑をかけないってことには、一本筋を通してる。だからうちの社員は、朝、車で出勤するときは渋滞を招く右折は禁止。スーパーで買い物するときなんかは、年寄りや体の不自由なほかのお客のために、なるべく入り口から遠い所に駐車するようにしてる。

仕入先に振り込むときも、送金料を引かないのは昔から。先方に収入印紙を張らせるような為替手形も出さない。「印紙代だけで年間50万円削減できた」なんて、ケチってほくそ笑むような会社が今も多いけど、そういう経営、うちはしないんだ。人に迷惑かけるようなことはしない。

毎年少しずつ、よくなる会社でありたいし、社員にも、毎年少しずつ、幸せになってほしい。それを実現したいから、会社も少しずつ成長させて、堅実な経営をしてきたい。

私の自慢の一つは、経営者として自分を律するために自分に課した心得10カ条を全部実行してること。自分に95点はつけてやれると思う。1、専門以外に幅広く知識を持ち、業界情報は世界的視野で集める。2、バランスを取りながらつねに変革を志す。3、永続こそ企業の価値。急成長を戒め、研究開発の種まきをつねに進める。4、企業の真の目的は雇用機会を創り、快適で豊かな社会を創ること。成長も利益もそのための手段である……、とね。

週刊東洋経済編集部
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