金融庁が仕組み債の次に狙い撃つ「外貨建て保険」 金利上昇で販売活況でも、「顧客本位」に疑義

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外貨建て保険の販売姿勢に対して、金融庁はかねて警鐘を鳴らしてきた。2016年9月に公表された「金融レポート」においては、商品性の複雑さや手数料率の高さがすでに指摘されている。

当時は相続税法改正による相続税対策需要の拡大や、マイナス金利の導入によって円建ての運用では利回りが確保しにくくなったことで、外貨建ての需要が高まった。一方で、不十分な商品説明が原因でトラブルも急増。消費者相談センターへの苦情件数は2018年度に538件と、2014年度から3倍以上に膨らんだ。

2019年12月、金融庁は販売額の多い地方銀行を中心にモニタリングを実施した。すると、手数料の高い外貨建て保険の販売に高いインセンティブを与える事例が確認された。「顧客の最善の利益となるリスク性金融商品の販売を行える態勢となっているか、改めて確認いただきたい」。翌2020年2月、金融庁は業界団体との意見交換会でクギを刺した。

コロナ禍で生じた間隙

さらなる実態把握に努めようとした矢先に発生したのがコロナ禍だ。中小企業の資金繰り支援など火急の案件に追われ、外貨建て保険の問題はひとまず棚上げされた。コロナ禍対応が峠を越えたことから積み残された課題に着手し、2022年度に仕組み債、2023年度に外貨建て保険がやり玉に挙がったというわけだ。

コロナ禍前に金融庁が発した警告とは裏腹に、銀行の販売体制に目立った改善は見られない。2023年6月に金融庁が公表したレポートでは、販売した保険のほとんどが外貨建てだったり、円建てと比べて4倍もの業績評価を外貨建てに設定したりする銀行の存在が明らかにされた。

「(顧客のニーズよりも)売りやすいからという理由で販売していないか。経営陣が実態をどこまで把握しているのか、しっかり調べていきたい」。別の金融庁幹部は話す。顧客本位をないがしろにした金融機関が支払うツケは、仕組み債だけでは終わらないようだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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