ドラマから始まった台湾#MeToo運動の奥深さ ジェンダー平等先進国台湾でも問題は根深い

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こうした台湾の動きを見ながら、どうして日本でも多くの性被害者が声を上げてきたのに、社会的に大きな流れになっているとは言い難いかわかった気がした。

日本の報道やSNSなどをよく見ている筆者は、声を上げた人たちがどんなに心ない言葉の暴力に叩きのめされているか、その恐ろしさを日々まざまざと見せつけられる。

「そんな服装だから」「酔っていたから」「どうしてすぐに言わなかったのか」「どこか過失があったのだろう」。手を変え品を変え、声を上げた当事者に投げつけられる憶測と悪意は日本社会のあらゆる方面に跳ね返り、性被害の記憶に囚われている被害者らをさらに傷つけ、萎縮させ、「声を上げられない自分が悪いのではないか」といった自己嫌悪や自己反省に向かわせ、徹底的に声を奪う。

下がる日本への評価

最近の、音楽フェス中に韓国のDJ SODA氏が胸を掴まれるなどの性暴力を受けたことに対する日本国内での氏への誹謗中傷は、日本のジェンダー意識の低さを国際的にさらけ出した。

彼女に具体的に触った当事者らが批判されているのはもちろんだが、DJ SODA氏のSNSに対して「そんな露出した格好だから悪い」といったような2次加害やヘイトに相当する差別的な日本語コメントは台湾でも逐一翻訳され、日本の評価を下げている。

また、多くのセカンドレイプが「もちろん触ったほうが100パーセント悪いけど」というエクスキューズから始まるのも、全く免罪符にならないことを付け加えておきたい。

これから日本は、これまで通りに傷つく人を増やしつづけ、国際感覚から立ち遅れていくのか。または、一度しっかりと立ち止まって社会意識を見つめなおし、次の社会ステージを目指すのか。現在の日本社会は、大事な踊り場に差しかかっている。

台湾の今の#MeTooムーブメントがどのような結果をもたらすのか、まだ全貌はわからない。しかし、少なくともこの運動が起きたことで、職場のセクシャルハラスメント防止法はより厳格になり、社会的な議論は深まっている。

前述のリストの中には、筆者自身がお世話になった知人の名前もいくつか上がっている。台湾社会がこの問題を今後、どのように改善していくのか、具体的には法やルールをどのように設定して対処していくのか。また、リストに上がった知人らに対して筆者は今後どのように接するのかなど、不透明なことは多い。

しかしまた、台湾に在住する筆者も台湾社会の一員として、声を上げた人たちの勇気を支えつつ、物事を冷静にみる目を養い、こうした苦しみを味わわなくて済むような環境と社会を次世代の子供たちに手渡すため、少しずつでも努力を続けたい。

運動が進むなかで、告発の内容について疑問を抱かざるを得ないような例も、或いは出てくるかもしれない。しかし多くの告発は、乾いたかさぶたをわざわざ剥がして血を流すような、当事者にとって最も辛い行為であることを忘れてはならないだろう。

台湾の作家・李屏瑤は、今回の台湾#MeToo運動の意義についてこう言っている。「過去の社会経験のなかで、セクハラをする側のコストが低すぎたのだ。今こそが、そのコストを上げるべきときである」。

栖来 ひかり 文筆家

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すみき ひかり / Sumiki Hikari

台湾在住の文筆家。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)。個人ブログ『台北歳時記』:https://taipeimonogatari.blogspot.com/

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