ドラマから始まった台湾#MeToo運動の奥深さ ジェンダー平等先進国台湾でも問題は根深い

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前述のドラマ「wave makers 選挙の人々」はタイトルの示す通り、台湾び熱い選挙模様を描いた政治ドラマだ。しかし、重要なもう1つの柱がある。さまざまな形のジェンダー問題だ。

例えば主人公はレズビアンで、女性のパートナーもいて、保守政党に属する国会議員の父親との間に軋轢を抱えている。また、主人公が副主任を務める野党の選挙対策本部に入った新人スタッフの女性は、その職場でセクハラの被害者となる。

さらに、彼女がかつて師弟的な関係で「恋愛関係」にあった男性からのリベンジポルノにおびえて日々を送っていることも明かされる。ここで描かれるのは「職場や教育現場における、権力不均衡ゆえに起こった性被害」だ。

主人公は、部下が誰にも告げられないまま抱えてきた孤独と傷に心を寄せ、元気づけ、同僚らといっしょに解決を図る。その象徴が冒頭の「これでハイおしまいなんてムリだよ、でしょ?」というセリフだ。台湾#MeTooが沸き起こったスタート地点は、そんな言葉に勇気づけられた視聴者にあったといえるだろう。

法律から取りこぼれるもの

アジアでトップのジェンダー平等を実現しているといわれる台湾では、政策や事業のあらゆる段階でジェンダー平等を目指すプロセス「ジェンダー主流化」が進んでいる。

また、2004年に制定された「ジェンダー平等教育法」や「ジェンダー平等法」が施行され、行政院(政府)には国内のジェンダー平等に関する現状調査や立法に提言をする機関も設置されている。

このように、ジェンダー意識が着実に根付いていっているように思えた台湾でも、職場や教育現場での性被害がこれほど深刻なのを目の当たりしたことは、正直いってショックだった。

とはいえ、問題の火種は確かにくすぶっていた。1987年に戒厳令が解除され権威主義体制から民主化へと歩んだ台湾社会では、伝統的な家父長主義のみならず、さまざまな権威指向が幅を利かせている。

加えて学歴や派閥といった激しい競争のなかで「力の不均衡」による性暴力やハラスメントの発生は避けようがなく、「台湾ではどうして#MeTooがムーブメントにならないのか」という声はこれまで何度となく聞かれた。

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