「アベノミクスで格差が拡大」は本当なのか ついに正社員増加数は「約9年ぶり」の高さに

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2月9日のコラム「ピケティでアベノミクス批判する残念な人々」では、当時注目を集めていたフランスのピケティ教授が「アベノミクスによって経済格差が拡大している」という構図を、一部の政治家やメディアが意図的に作ろうとしていたことを批判的に紹介した。

アベノミクスで雇用は100万人増加した 

ただ、実際にピケティ教授自身が、景気回復のための金融緩和を評価し、また景気回復を損なう消費増税に批判的だったことで、こうしたメディアの論調も空振りに終わったようである。

ピケティ教授は富裕層や資本家への所得集中に焦点を当てたわけだが、デフレという特殊な経済状況が続いた日本において深刻だったのは、デフレと同時に起きる労働市場の需給悪化(人手余り)がもたらす所得格差だったのだろう。

具体的には、失業などで労働市場から退出を迫られただけでなく、1990年代半ばにデフレが始まってからは新卒時代の就職氷河期が恒常化し、低賃金での就労を余儀なくされるなど、就労環境が大きく悪化した。低所得の若年層が大量に増えたことが主因だが、所得格差が広がったことが、過去20年の日本経済の大きな特徴だったと思われる。

こうした意味で、金融緩和策で総需要を底上げして需給ギャップを縮小させ、それを通じて、労働市場の需給を好転させ、人手不足状態を長期化させることは、新たな雇用創出などを通じて「日本の特有の所得格差」を縮小させる。実際、アベノミクス発動以前の民主党政権下で減り続けていた雇用者が、2013年以降の2年間で約100万人増えたのである。

以上の点を指摘しても、「新たに生み出された雇用はパートなどの賃金水準が低い労働者が多いので、格差拡大を助長するだけ」などといった議論がいまなお堂々と展開されている。実際には、景気回復が始まった初期局面において、まず流動性が高いパートなどの非正規社員が増え始めるのは、メカニズムとして当然なのだから、批判になっていない。

また、3月30日のコラム「賃上げを『安倍政権』の圧力という残念な人々」では、今年の春闘において賃金上昇率が約17年振りの上昇となったことを紹介したが、これは労働市場による需給改善が、賃金上昇として波及し始めたことを示している。2%インフレの早期実現を後押しするほど高い賃金上昇率ではないが、金融緩和拡大を起点とした労働市場による需給改善が、雇用創出そして名目賃金上昇として表れている。

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